一目見て「これはものが違う」と思った。都立西高の2年生QB泉岳斗(いずみ・がくと)選手である。
身長178センチ、体重83キロは日本人の高校生として特別なサイズ感はないが、ダイナミックなプレースタイルもあって、とても大きく見える。
パスの球筋が17歳とは思えない。速くて重そうなボールを、レシーバーがはじいてしまうことも珍しくない。
11月4日、東京・駒沢第二球技場で行われた千葉日大一高との「全国高校選手権」の関東地区大会準々決勝。西高は14―35で敗れ、ベスト4に進めなかった。
試合後整列して応援席に挨拶した泉選手は泣いていた。流した涙は、3年生に申し訳ないという気持ちの表れだったという。
泉選手を中心にした西高は、東京都大会から苦戦していた。
3年連続の高校日本一を狙う佼成学園高との準決勝は14―28で敗れ、3位決定戦では日大鶴ケ丘高に36―37で競り負け、東京の4位で関東地区大会に進出した。
関東地区大会の1回戦では、神奈川の名門・法政二高を51―49で破り、やっとの思いでベスト8入りした。
「今年は、去年のディフェンスの主力メンバーが抜けて、どうしても打ち合いのような試合になってしまう。そこで点を取るのが僕の仕事なのに、それができなかった」
泉選手は、悔しそうにそう言った。
東京の大田区で生まれた泉選手は小学校3年の時、父親の転勤で米ペンシルベニア州南部にあるヨークに移り住んだ。
現地ではアメリカンフットボールをはじめ、テニスやスノーボードなどのスポーツに親しんだ。
「通っていた中学校のチームはラインが大きくて強く、レシーバーも上手でQBとしてプレーするのは楽だった」そうだ。
中学2年の途中で帰国。帰国子女が多く通うことで知られる目黒区の東山中学校に編入、同時に世田谷ブルーサンダースに所属しQBとしての腕を磨いた。
スポーツをする環境に恵まれているとは言えない偏差値70を超える進学校の西高では、アメリカ時代のようにはいかない。「相手の守備を研究して、頭脳戦で勝てるように工夫している」という。
泉選手の見せ場は、プレーが崩れてから。相手ディフェンダーのプレッシャーをバランスのいい動きでかわしながら、ぎりぎりまで味方のレシーバーを探す。
右利きのQBが左に走って、半身の体勢から正確なパスを投げることもできる。日本の高校生レベルで、これをこなせるQBはあまりいない。
ショットガンは、泉選手の加入で本格的に採用したそうだ。
「以前は、焦ると無理をしてパスを投げてしまったが、今はレシーバーを探して駄目なら投げ捨てる。セットしたら、まず相手のセーフティーが一人か二人かを確認する。そしてCBのクッション(レシーバーとの距離)を見て、次にLBの動きに注意する」
未完の大器。気になるのはその進路だ。理系の科目が得意な本人は、アメリカで勉強したいという希望を持っている。
「プレーヤーとしてアメリカの大学に挑戦するのは難しい。できれば国内の大学でフットボールを続けて、その後アメリカの大学院で勉強したい」
40ヤード走は4秒9で、ベンチプレスは90キロ。まだ17歳、トレーニング次第で体はもっと大きくなるだろうし、パワーアップも期待できる。
好きなNFLの選手はシアトル・シーホークスのラッセル・ウィルソン。180センチと、プロとしては小柄なQBの小気味いいプレースタイルは「とても勉強になる。手本にしたい」と話す。
「トンカツが大好き。ご飯がおかわり自由の店は最高です」―。食べ物の話になると、高校2年生の素顔がのぞく。
都立高校で久しぶりに現れた「大物」。目指す進学先には「京大」も入っているという。 (共同通信=宍戸 博昭)