悪質な中傷、ネットで減らない理由

弱者たたく〝差別ビジネス〟も 検証・ヘイトスピーチ対策法(1)

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東京都内でのヘイトデモの様子

 誰もが情報を発信できるインターネットは、実は深刻な差別の温床となっている。瞬時に拡散していくため、悪質なデマや中傷が書き込まれると、被害は大きい。匿名の誰かによる「死ね」というつぶやきが、被害者をとことん追い詰めていくこともある。実社会への影響は無視できない。

人権侵犯、5年連続過去最高を更新

 法務省は今年3月、2017年中に全国の法務局で受け付けたネット上の人権侵犯事件が2217件に上ったと発表した。前年比16・1%増で、5年連続で過去最高を更新した。一方、法務局がプロバイダー(接続業者)や運営会社に書き込みの削除を要請したのは、約4分の1の568件にとどまる。要請数が少ないのは「表現の自由」を考慮したためという。

 削除要請した中には、数百万件もの中傷を受けた女性も含まれている。女性は川崎市の在日コリアン。ヘイトに反対する運動をする中で、攻撃にさらされ続けた。彼女の名前を検索すると600万件以上がヒットする。多くが差別、中傷の書き込みだ。未成年の子どもまで名前と顔写真をさらされている。

 法務省は、これら中傷のツイッターやユーチューブ、ブログの書き込みを削除するよう運営会社などに要請し、一部は消えた。それでも、削除要請が追いつかず、彼女に対する差別書き込みの多くは残ったままだ。

事件化に高いハードル

 刑事事件となると、ハードルはさらに高い。彼女への数百万件もの中傷のうち、事件化されたのは1件だけ。神奈川県警は18年5月、ツイッターにヘイトスピーチを投稿したとして、同県藤沢市の男性を脅迫の疑いで書類送検した。女性が2016年8月に刑事告訴していた。女性の代理人の師岡康子弁護士は「警察が告訴を受理して匿名のヘイトスピーチ投稿者を特定し、脅迫容疑で書類送検までしたのは珍しい」と話す。

 師岡弁護士によると、書類送検容疑は、16年8月と17年4~5月、女性の住んでいる地域を挙げて「チョーセンはしね」と投稿したり「ナタを買ってくる予定。レイシストが刃物を買うから通報するように」とツイートしたりした疑い。

 書類送検後、女性は「生きるのを諦めたくなったことや、投稿されたことが現実に起こるのではと考えることもあった」と涙ながらに語り、こう訴えた。「匿名の投稿でも、特定されて刑事責任が問われるようになってほしい」

 この女性の場合、自らネットを確認して証拠を集め、告訴したり法務局に相談したりした。しかし、こうしたことを個人がするのは負担が大きく、誰にでもできることではない。

差別に当たる書き込みがないかインターネットを監視する兵庫県尼崎市ダイバーシティ推進課

パトロール始めた自治体も

 そこで、ネットをパトロールし、プロバイダーに削除要請したり、法務局に通報したりする部署を設けている自治体も出始めた。

 先行する自治体の多くは、部落差別を長年監視し、ノウハウを持つ西日本の自治体だ。

 「在日とか部落系の会社教えてください」「福山の同和地区はどこ」

 これらは、広島県福山市の人権・生涯学習課がネット掲示板で見つけた書き込みの一部だ。高橋雅和課長は「こうした質問を放置すると差別を助長する。早めに芽を摘まなければ」と話す。

 発見次第、掲示板管理者に削除を要請している。00年に監視を始め、17年度末までに509件の削除を要請。うち365件が削除された。多くが部落差別に関する書き込みだった。

 兵庫県尼崎市はダイバーシティ推進課が監視に当たる。17年度は市と関連のないものを含め1729件の差別書き込みを確認。削除を要請したうち1448件が削除された。担当者は「在日コリアンの殺害予告など、ひどい書き込みもあり、尼崎市と関連のないものも削除要請をしている」と話す。

 両市には他自治体からの視察が増えており、取り組みは少しずつ広がっている。

 大阪市は、ヘイトスピーチ抑止条例に基づき、ネット上の動画4件と記事2件をヘイトと認定した。動画の中身は13年に大阪市内であった在日コリアン排除を呼び掛けるデモや街宣活動。いずれも削除された。

差別がビジネスに

国会内で開かれた、インターネット上の差別表現への対処法を

 今年5月、ヘイトスピーチ対策法の施行から2年となるのを前に、ネット上の差別にどう対処すべきかを考える集会が国会内で開かれた。ジャーナリストの津田大介さんは「弱者をたたく記事がよく読まれ、広告が集まってビジネスになっている」と指摘した。

 津田さんによると、ネット上の政治的な主張のほとんどが「嫌韓・嫌中」や社会的弱者への攻撃で、これらの記事に人気が集まっている。「プロバイダーに対策を促す技術的解決と、広告業者に出稿を停止させる経済制裁的解決など、対症療法を組み合わせていくしかない」と話した。

 山口県人権啓発センターの川口泰司事務局長は、ネット上の部落差別の深刻さを報告。「被害者本人ではなく、国が積極的に削除を求めていくべきだ」と強調した。

 ドイツには、ネットで違法な書き込みを見つけた人が誰でも申告でき、違法性が明白であればサイトの管理者が24時間以内に削除しなければならない制度がある。龍谷大の金尚均教授(刑法)は「日本ではネット規制がほとんどなく、差別表現で盛り上がる『火事』が起きても消せない。業者に『消火器』を持たせる法制度が必要だ」と訴えた。(共同通信ヘイト問題取材班、続く)

 国外出身者とその子孫への差別を助長する著しい侮辱などを「不当な差別的言動」と定義し、「許されない」と明記したヘイトスピーチ対策法の成立から2年半。表現の自由との狭間で集会やデモへの対応に悩む自治体の取り組み、ネット上での対応の難しさなど、法成立後の成果と課題を検証した。

デモは減ったけれど…  進む巧妙化、海外から批判も 検証・ヘイトスピーチ対策法(2)