デモは減ったけれど…  進む巧妙化、海外から批判も 検証・ヘイトスピーチ対策法(2)

川崎市の市教育文化会館で開催予定だった集会に抗議し、座り込む市民ら

 人種や民族、出身地、性別など、自分で選べない属性を理由に「帰れ」「死ね」とののしるヘイトスピーチ。こうした差別を扇動するヘイトデモは、これまで在日コリアンや韓国人が集まる地域、朝鮮学校などを標的に繰り返されてきた。デモに苦しんできた人々の声を受け、2016年6月に施行されたのがヘイトスピーチ対策法だ。法の施行後、効果はどうだったのか。そして、課題はどこにあるのか。

 ヘイトスピーチ対策法 国外出身者とその子孫への差別を助長する著しい侮辱などを「不当な差別的言動」と定義し、「許されない」と明記した。法務省は具体例として、①「○○人は殺せ」「○○人を海に投げ入れろ」といった脅迫的言動②ゴキブリなどの昆虫や動物に例える著しい侮辱③「町から出て行け」などの排除をあおる文言―などが当てはまると自治体に提示。国と自治体に相談体制の整備や啓発活動の充実を要請している。16年5月24日成立、同6月3日施行。

デモ禁止の事例も

 川崎市と大阪市では、在日コリアンが多く住む地域でのヘイトデモが司法によって禁止された。

 川崎市川崎区の社会福祉法人「青丘社」の申し立てを受けた横浜地裁川崎支部は16年6月、過去にヘイトデモを繰り返してきた団体に対し、法人の事務所から半径500メートル以内でのデモの禁止を命じる決定を出した。「違法性は顕著で、憲法が保障する表現の自由の範囲外」との理由だ。第三者に同様の行為をさせることも禁じた。

 大阪市では、在日外国人の人権に取り組む大阪市生野区のNPO法人「コリアNGOセンター」が、在日コリアン排除を訴えるデモの禁止を求める仮処分を申し立てた。大阪地裁は16年12月、法人の事務所から半径600メートル以内での「在日コリアンの差別的意識を助長し誘発する目的」のデモを禁止する決定を出した。第三者による同様の行為も禁じた。

 警察庁によると、法施行前の1年間で65件あった右派系市民グループのデモは、法施行後の17年6月までの1年間は40件、18年6月までの1年間は46件が確認された。一定程度は減少したと言えそうだ。18年の確認件数は1~9月で20件。担当者は「法施行後に一度減り、また増えている。そのときどきの情勢がある。今後もグループの動向に注意を払っていく」と話した。

 各地の在日コリアンからも「デモへの抗議活動を抑圧していた警察が対応を変え、ヘイト側を抑圧するようになったケースもある」と評価する声が上がる。

対策の遅れ、国連から繰り返し指摘

 確かに、ヘイトデモが禁じられる場所が指定されたり、デモの回数が減って規模も縮小したりしている。しかし、対策法が目標とするヘイトの「根絶」は道半ば。「『死ね』『殺せ』といった言葉は減ったが、拉致問題解決のデモを装って朝鮮人を差別するケースもあり、巧妙化している」との指摘もある。

 日本のヘイトスピーチには、海外からの批判も高まっている。国連の人種差別撤廃委員会は長年、日本政府に差別禁止の取り組みの遅れを指摘、是正するよう繰り返し勧告してきた。ヘイトスピーチ対策の遅れも、その一つだ。

記者会見する国連人種差別撤廃委員会の対日審査担当の委員ら=2018年8月

 委員会は今年8月も日本を審査。ある委員からは「ヘイトスピーチ対策法に『差別的言動は許されない』とあるが、どう許さないのか」との質問が投げかけられた。

 委員会は
(1)ヘイトスピーチ対策法の改正
(2)人種差別を禁止する具体的で包括的な法律の採択
(3)ヘイトクライムや憎悪の扇動を調査し、適切な制裁を科すこと
―などを次々と勧告。より踏み込んだ措置を求めた。

 人種差別撤廃条約の加盟国には、人種差別禁止法の制定が課せられている。日本は1995年に条約加盟したが、20年以上たっても法を制定していない。条約が定めた「人権機関」の設置も未達成だ。ヘイトスピーチ対策法だけでは埋められない差別根絶の取り組みの必要性が高まっている。(共同通信ヘイト問題取材班、続く)

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