模索する専門性(1)工業高 「動」と「静」が共存

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大きな工作機械や旋盤などが置かれた機械科の実習室

高校には普通科の他にも工業などの専門学科、総合学科、通信制、単位制などさまざまな形がある。大学進学だけを選択肢としない学校では高大接続改革や新たな学習指導要領をどのように捉え、学びにつなげているのか。各現場からリポートする。

ものづくりの担い手育成

日本有数の磁器の産地、佐賀県有田町。町で唯一の高校、県立有田工業高では四つの専門学科と定時制に613人が学ぶ。同校のルーツは、1881年に設立された日本初の陶磁器産業への技術者養成機関「勉脩(べんしゅう)学舎」。このため九州の工業高校で唯一、セラミック科があり、1学年約40人が“原点”を今に受け継ぐ。

工業高校でのアクティブラーニング(主体的・対話的で深い学び)はどうなっているのか。素朴な疑問を口にすると「ろくろや機械でものづくりをする実習は、アクティブラーニングそのものです」と津川久博校長(57)は強調した。

セラミック科では、生徒全員が持つ個人用のタブレット端末に、ろくろでの成形など手本となる動作を収録した動画を配信。生徒は動画を見ながら「腰の入れ方が弱い」など改善点を見いだし、自らの作業を撮影して確認もしている。タブレットは調べ学習や作品発表などのプレゼンテーションにも活用している。

「情報通信技術(ICT)と焼き物は結びつきにくいように思えますが違うんです」と同科主任の沢山大亮教諭(38)。卒業生は陶芸家になるとイメージされがちだが、最先端のものづくりに活用されるファインセラミックスの工業技術者になる生徒もいるという。

一方、伝統技術を継承する授業も、もちろんある。同科3年の授業をのぞくと、15センチの磁器皿に花柄を絵付けしていた。講師を務めるのは、厚生労働省のものづくりマイスターに認定された地元の職人5人。「現代の名工」に選ばれるなど卓越した技術を持った面々から指示が飛ぶ。

「もっと線が太くてもいいよ」「指はこう動かして」。説明を聞き、目を凝らしながら絵筆を握る生徒の表情は真剣そのもの。福田将希さん(17)は「指導が具体的で分かりやすい。先生の筆の動かし方を見て学ぶことも多い」と語った。伝統工芸士の市川光山さん(57)は「一つの仕事を覚えるには10年かかる。懲りずに反復練習を続けてください」と呼び掛けた。

同科は3年になると、テーマを定めた課題研究に取り組む。地元の陶石を使った皿に絵付けをするグループ研究を進める松尾舞華さん(18)は「繊細な線を再現するのに一生懸命です」と目を輝かせた。

日進月歩の技術の世界。沢山教諭の自宅には工房や窯があり、授業外の時間で作品を制作する。「教える方も技術を磨き続け、高いレベルで指導しないといけない」と話す。

人間性も磨き上げる

他の学科の授業も見せてもらった。大型の工作機械や旋盤がずらりと並ぶ機械科の実習棟では、3年生が火花を散らしながら金属を溶接していた。機械から上がる大きな音。セラミック科の「静」と趣の異なる「動」の世界が広がる。同科では自転車を止めるスタンドなど「自分で造れるものは製作する」という。

ものづくりを楽しむ生徒たちの表情は生き生きとしている。津川校長は「同じものづくりでも、まったく違った世界。それぞれの科の生徒同士が、相手の技術をすごいと評価し合う環境がある」と語った。

少子化に伴って同校でも生徒の確保は大きな課題の一つだ。ただ、津川校長には「日本のものづくりを支えてきたのは工業高校」との自負がある。システム開発や海外勤務などに就く卒業生もいる。好景気と人手不足で、求人は就職希望者の10倍以上あるといい「大学、大学院と行けば6年かかる。高校で技術を学び、社会でスペシャリストを育てるというニーズが企業側にもある」。

生徒たちは実際に手を動かしてものづくりをすることで、鉛筆などの文房具一つでも自然と大切にする心が育つという。就職する生徒には高校が最後の教育機会。「人として成長してもらいたい」と、どの教員もそう口をそろえる。「ものづくり立国」を次世代に引き継ぐため、「人づくり」との両立を目指す学校の姿がここにはあった。

専門高校工業や農業、商業、水産、情報、看護など職業に関する教育を行う学科を持つ高校。文部科学省によると、昨年5月現在、高校生徒約327万人のうち、職業学科に通うのは約60万人。生徒数では工業(約25万人)、商業(約20万人)、農業(約8万人)と続く。卒業生の進路は就職(53・1%)が大学などへの進学(21・3%)より多い。文科省は専門高校が「有為な職業人を多く育成するとともに、職業観の育成や創造性を養う総合的な人間教育の場としても大きな役割を果たしている」とする。

=2018/11/04付 西日本新聞朝刊(教育面)=