傷ついた故郷、励ます絵 東北で被災、熊本市出身者の県内初個展

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東日本大震災を経験して生まれたという蓮の連作。「悲しみと苦しみを浄化したいという祈りを込めた」と語る大森桂子さん=6日、熊本市中央区
大森さんが熊本の被災地の土を絵の具にして描いた豆朝顔。タイトルは「心繋いで」=熊本市中央区

 東日本大震災で被災した熊本市出身の大森桂子さん(71)=相模原市=が、熊本地震に見舞われた故郷への思いを込めた日本画展を7日から、熊本市中央区のアートスペース大宝堂で開く。東北支援の恩返しと、傷ついた故郷への励ましを込めて企画。熊本の被災地の土を使って描いた「豆朝顔」は、どんな境遇でも立ち上がり、生き延びる強さを表現したという。

 大森さんは約20年前、岩手県大船渡市三陸町の海岸沿いに夫と2人で移住。自宅は高台にあったため、大きな被害を免れたものの、目前まで迫ってきた大津波が多くの家や人をのみ込んでいく様子を目の当たりにした。「映画を見ているようで、しばらく現実として受け止められなかった。今も当時の映像は見ることができない」と語る。

 食料も水も電気もない被災生活。九州女学院(現九州ルーテル学院)時代の友人や先輩、恩師らがすぐに食料や衣類など支援物資、支援金を集めて送ってくれ、大森さんは地域に配って回った。「故郷の温かさに立ち直る力をもらった」という。それだけに東北を支援してくれた人たちが被災者になった熊本地震はショックだった。

 復興半ばの東北から自分にできることを考えた末、行き着いたのは「絵の恩返し」。豆朝顔をモチーフにした作品「心繋[つな]いで」は、被害の大きかった益城町や南阿蘇村、熊本市の土を絵の具にして制作。全壊した自宅の土を送ってくれた人もいた。直径1センチぐらいの小さな花だが、花言葉は「見つけたら幸せ」。「誰かが種をまけば、またそこから芽が生えて生き延びる。小さな希望を込めた」という。

 “仏の花”ともいわれる蓮[はす]の連作は、被災者の悲しみや苦しみを浄化したいという祈りを込めた。描くにあたっては図書館に通い詰めて仏教の教えなども勉強し、蓮池で連日スケッチしたという。昨年11月に東京で開いた個展で来場者が涙を流す姿を見て、言葉が無くても思いは通じると実感。熊本での初の個展にも踏み切った。

 絵を始めたのは九州女学院中の時。当時、美術の先生だった版画家・彫刻家の浜田知明さん(7月死去)から「絵の具を貸してあげるから描いてごらん」と言われたのがきっかけだ。悩んでいた時、「いろいろあるけど、なんとかなるさ」という浜田さんの言葉が、被災した時も心の支えになったという。

 大震災を経験して絵が変わったという大森さん。「自分の中から余分な欲を切り捨てることができた」。3年前に療養のために神奈川県に引っ越した。

 「東北で感じたのは数年がたってから被災者の傷口が深くなっていくこと。家や肉親を失った絶望感から、せっかく助かった命を自ら絶った人が何人もいる。熊本もこれからが正念場だと思う」

 絵を通して東北と熊本の震災の記憶と思いをつなぎたい-。今回展示する62点には、そんな思いも込められている。被災地の土が織りなす優しい色調の豆朝顔が「一人じゃないよ」と語り掛けてくるようだ。12日まで。無料。(浪床敬子)

(2018年11月7日付 熊本日日新聞朝刊掲載)