命守る避難の「スイッチ」を 京大防災研・矢守克也教授

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矢守克也京大防災研教授

 豪雨による土砂災害や河川氾濫から私たちはどう命を守るべきか。矢守克也・京都大防災研究所教授(防災心理学)に聞いた。

 -西日本豪雨では自治体の避難情報が課題になった。

 自治体が出せる避難情報は「避難準備・高齢者等避難開始」「避難勧告」「避難指示」の三つしかなく、何万人もの住民を最適に避難させるのは無理がある。避難情報は参考であって、命をそれだけに預けるのは危険だ。

 -私たちは何を基準に避難すべきか。

 一つは「事前に知っておくべき情報」。ハザードマップだけでなく、20年前に土砂崩れが起きたといった、地域がどの災害に危険かを普段から知ることが大切。もう一つは、避難を行動に移す「スイッチ」となる情報。河川氾濫では水位がスイッチになる。普段の水位を知っておき、比較すれば「ただ事ではない」と分かり、「この水位になったら避難しよう」と決められる。高齢者には、近所の人が避難の声掛けをするのも大事なスイッチで、遠くの家族でも電話で背中を押せる。

 -土砂災害のスイッチは。

 気象庁がインターネットで公開している「土砂災害警戒判定メッシュ情報」が有効だが、注意すべきは累積の雨量。土砂災害は降り続いた雨が土砂に蓄積し、豪雨が最後の一押しとなって起こることが多い。長雨が続いても多くの人は警戒しないが、24時間、48時間でどれだけの雨が蓄積したかを把握し、過去の土砂災害と照らし合わせ、「これだけの雨量になったら逃げよう」と意識しておくことが大事。

 五感で分かる土砂崩れの前兆としては「沢の水が茶色になった」「普段流れていない所から水が流れている」といった現象が起きる。切迫したケースとしては「音」や「臭い」。木材や岩が動きだすと震動やこすれる音、独特の臭いが生じることがある。

 -急激に状況が悪化する災害にどう対処すべきか。

 早期避難は命を守るために有効だ。避難して災害に遭わなかったことを日本ではネガティブに「空振り」と呼ぶが、避難を10回、20回と繰り返すことが21回目に命を救うことにつながる。

 -西日本豪雨では、各地で避難路が寸断された。

 どこを通って、どこへ逃げるかは重要。避難先は、ベストな場所、次に安全なセカンドベスト、最後の土壇場に身を寄せる三つを考えておくべきだ。避難先を自宅の2階にする高齢者もいるが、実際に階段を上がる訓練をしておくと、自力で上がれないとか、手すりが必要だと気づく。

 -避難のスイッチを一人で考えるのが難しい人もいる。

 地域で取り組むことが重要だ。住民が集まり、自治体や消防団、専門家を交え、ハザードマップを見て「わが家はどうすべきか」を考える取り組みが命を守ることにつながる。

 

■やもり・かつや 1963年生まれ。人と防災未来センター上級研究員。「〈生活防災〉のすすめ」「天地海人」「防災人間科学」など著書多数。

 <連載 豪雨の教訓 京都府北部の現場10完> 7月、西日本豪雨が京都府を襲った。記録的な雨は山を崩し、川を氾濫させ、5人の命と多くの人の暮らしを奪った。豪雨が私たちに突きつけた教訓とは何だったか。府北部の現場を検証する。