ケアマネらとの連携強化 長崎県歯科医師会 訪問診療普及に力 要介護高齢者 通院難しく口腔状態悪化も

 11月8日は「いい歯の日」。高齢化の進展を背景に、長崎県歯科医師会は要介護高齢者らの訪問歯科診療の普及に力を入れている。通院が難しいことから口の中(口腔(こうくう))の状態が悪化しがちで、食べ物をかんだりのみ込んだりする力が衰え、体全体の健康に影響する恐れがあるからだ。他の分野の在宅医療に比べ、歯科診療は見過ごされやすい傾向もある。同会は県民への必要性の周知や、ケアマネジャーなど要介護者と接する他の職種との連携強化などを進めている。

 「ご飯をたくさん食べたねえ」。10月下旬の昼、西彼時津町内の自宅ベッドに横たわる80歳代の女性に、えがしら歯科医院(同町浦郷)の江頭聡院長が語りかけた。女性は食事を終えたばかり。体にまひがあり言葉も不自由だが、院長の声掛けに笑顔で応じた。院長は「話し掛けたときに口を動かすなどの様子から、あごやのどの状態を確認しているんです」と語る。

 江頭院長は月1回程度、歯科衛生士と一緒に訪問。家族によると、以前から足が不自由で昨年から寝たきりに。春に歯茎の痛みを訴えたためケアマネジャーに相談し、訪問診療が始まった。歯周病の治療と家族への歯磨き指導などで、現在は改善。家族は「歩けなくなってから、歯科に連れて行けていなかった。今はご飯もよく食べるようになった」と話す。

 口腔の健康、衛生は食事面だけでなく、口腔内の細菌による疾患の予防にも重要。要介護者の9割は歯科治療か専門的ケアが必要だとされる。今年策定の県医療計画は、高齢者が住み慣れた地域で医療、介護など必要なサービスを受けられる「地域包括ケアシステム」構築の一環として、訪問歯科診療を行う県内の診療所数を、2014年の278カ所から20年に303カ所に増やす目標を掲げた。

 江頭院長は県歯科医師会の地域福祉担当理事。県内の現状について「人口10万人当たりの訪問診療実施医療機関数は都道府県別でトップと、比較的熱心に取り組んでいる。それでも、訪問診療はまだ十分知られていない」と指摘する。

 普及に向け同会は15年、インターネットで県民が訪問診療を申し込める「長崎デンタルネット」をホームページ(HP)に開設。県の地域医療介護総合確保基金を活用し、訪問診療の依頼を受ける窓口「拠点連携推進室」を3地域(長崎市、佐世保市、島原南高)に16年度までに整備した。17年度からは訪問看護師、ケアマネジャーらと意見を交わす研修会を開いている。

 本年度は、ケアマネジャーらが高齢者の状態を確認し、口腔ケアや歯科受診の必要性を判断できるチェックシートを新たに作成。10月末にHPで公開した。本年度の介護報酬改定で、ケアマネジャーに利用者の口腔に関する問題を歯科医師らへ伝達することが義務付けられた。江頭院長は「シートを伝達に活用してもらい、必要な高齢者の訪問診療につなげていきたい」と話す。

訪問歯科診療で、寝たきりの女性を診察する江頭院長=西彼時津町

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