検証 長崎市政 田上市長の3期 <住民投票請求> 皮肉な「市民力」発露

 「国際会議なんてわざわざ長崎まで来るもんですか。お金があるなら、もっと福祉に回してほしい」

 10月11日、長崎県長崎市浜町のアーケード。長崎市がJR長崎駅西側に計画しているMICE(コンベンション)施設整備に反対する市民グループの街頭署名に応じた70代女性は、こう語った。

 人口減少が進む中、交流人口拡大で長崎市内の消費を活発化し、地域衰退をカバー-。市長の田上富久が描く未来像において目玉施設の一つが2021年11月に開業予定のMICE施設だ。官民一体で国際会議や学会、展示会・イベントを誘致。年間775件開催し、利用者61万人と経済波及効果114億円を見込んでいる。

 ただ人口減少は極めて深刻だ。2017年の転出超過数は全国市町村でワースト3位。現在約42万人の人口は45年に約31万人まで減ると推計されている。交流人口でどこまでカバーできるか見通せず「将来への不安は大きい」(ある長崎市議)。

 MICE施設は、田上を含む産学官7団体のトップによる「長崎サミット」で推進してきた。長崎市議会内には「これほど官民が連携したことはない」「何もせず手をこまねくわけにはいかない」と支持する声がある。半面、市内外の同様の施設との競合に対する懸念から「本当に誘致できるのか」といぶかる声もある。

 長崎市はほかにも新市庁舎建設や新幹線開業に伴う各種整備など“次の4年”でめどを迎える大型事業を複数抱えている。田上は長崎市の年間の実質的な借金返済額(公債費)を2017年度で174億円と市長就任時の2007年度から3割削減し、貯金(基金)残高は76億円から200億円超まで増やしたことに胸を張り「しっかり財政運営して未来へ投資する。止めてはいけない」と強調する。

 こうした中、MICE施設の是非を問いたい市民グループは住民投票条例制定の請求に必要な署名数を集め終え、条例案が27日開会予定の定例市議会に提出される見通しとなった。2016年以降、住民投票を求める請求は市公会堂の存廃などを巡り4回あったが、田上は全て反対意見を表明し、長崎市議会も否決した。

 なぜこうも市民運動が続くのか。10月12日の定例記者会見で問われた田上は「まちが大きな転機を迎え、さまざまな思いが行動になっていると思う。ひと口に理由を言うのは難しい」と言うにとどめた。田上が就任時に掲げた「市民力」は皮肉にもこんな形で発露している。(文中敬称略)

MICE施設を含む複合施設の完成イメージ(上)と、整備に反対する市民グループの街頭署名活動のコラージュ

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