アルピーヌ A110 試乗│永遠に残る楽しさを備えたピュアスポーツ

アルピーヌ A110(ピュア)

フランスから新しい軽量スポーツカーが登場した

アルピーヌ A110(ピュア)

“初代”アルピーヌ A110の登場から55年、2017年に復活を遂げた“新型”アルピーヌ A110。日本では2018年に発売が開始。正式発売に先行して初回限定モデル「プルミエールエディション」が50台発売されたが即日完売。その後、正式発表に合わせて2つのカタログモデル「ピュア」と「リネージ」が登場した。

すでに同業の嶋田智之さんにより海外試乗とプルミエールエディションでの国内(都内~箱根)の試乗レポートが掲載済みだが、今回は駿東郡小山町~御殿場市近郊の一般道と富士スピードウェイショートコースでの試乗。走る場所が変わると印象はどうか?

筆者はアルピーヌの歴史や初代A110によるラリーでの偉業などはよく知っているものの、世代が若い(!?)ので実体験としての経験はない。どちらかと言えば学生時代にリアルタイムだったアルピーヌGTA(1985)、A610(1991)のほうが思い入れは強い。

そんな事から、今回は名門ブランドの復活と言うフィルターは極力抑え、「フランスから新しい軽量スポーツカーが登場した」と言う視点で冷静にチェックしてみたいと思う。

“軽く”、“コンパクト”という原点回帰

アルピーヌ A110(ピュア)

昨今、スポーツカーの高性能化は著しい進化を遂げているが、その一方で“重く”、“大きく”なっているのも事実である。A110はスポーツカーの原点に立ち返り、“軽く”、“コンパクト”に設計されている。

ボディサイズは全長4205×全幅1800×全高1250mmのコンパクトなミドシップレイアウトで、前後重量配分は44:56。アルミ製ボディ&シャシー、サスペンション、サベルト製の軽量スポーツシート(何と1却13.8kg)、ブレンボ製ブレーキディスク(通常より8.0kg軽量)、世界初のブレンボ製パーキングブレーキアクチュエーター内蔵リアブレーキキャリパー(通常より2.5kg軽量)、フォーカルスピーカー(通常より470g軽量)など細かいアイテムに至るまでこだわった結果、車両重量は1110kg(ピュア)を実現している。

サスペンションは前後ダブルウィッシュボーン式で、ショックアブソーバーはメガーヌR.S.にも採用されるダンパー・イン・ダンパーがバンプラバーと同じ機能を持つ「HCC(ハイドロリック・コンプレッション・コントロール)。

タイヤはグリップよりもコントロール性を重視した専用スペックのミシュラン・パイロットスポーツ4(フロント:205/40R18、リア:235/40R18)と軽量なFUCHS製鍛造アロイホイールの組み合わせだ。

3つの走行モードが選択可能

アルピーヌ A110
アルピーヌ A110(ピュア)

パワートレインはルノー/日産アライアンスで共同開発された1.8リッター直噴ターボをベースにエアインテーク/ターボチャージャー/エキゾーストシステム/制御系をA110仕様にチューニング。スペックは252ps/320NmとメガーヌR.S.よりも控えめだが、軽量である事と絶対性能よりも官能性能を重視したためだそうだ。トランスミッションはA110用にギア比を最適化したゲトラグ製7速DCTを組み合わせる。

ちなみに、走行ステージや好みに合わせてステアリングに装着されたボタンで3つのモード(ノーマル/スポーツ/トラック)が選択可能で、スロットルレスポンス/ステアリングアシスト/ギアシフトスピード/ESC設定/メーター表示などが変化する。

初代を知る人には“懐かしさ”、逆に知らない人は“他のスポーツカーとは違う”新鮮”な印象

アルピーヌ A110(ピュア)
アルピーヌ A110(ピュア)
アルピーヌ A110(ピュア)

エクステリアデザインは初代のイメージを受け継ぎながらも独自の個性がプラスされている。筆者はパリモーターショー2018取材時に、パリ市内で初代と新型のランデブー走行を目の当たりにしたが、確かに雰囲気は似ているが単なる懐古主義とはちょっと違うな……と感じた。恐らく、新型は初代を知る人には“懐かしさ”、逆に知らない人は“他のスポーツカーとは違う”新鮮”な印象を持つかもしれない。

ちなみに派手なウイング類は装着されないが、完全なフラットアンダーボディとリアバンパー下のディフューザーにより、低ドラックと大きなダウンフォースを実現。これはレースからフィードバックされた技術だ。

インテリアはシンプルで機能的と言う意味では初代を受け継いでいるものの、デザイン自体は全くの別物。

フル液晶メーターやセンターモニター、集約されたスイッチ類などにより近代的なイメージで、少量生産スポーツカーにありがちな安っぽさや手作り感もない。

ダイレクトだけど扱いやすさがあり、結果として気負いせず乗ることができる

アルピーヌ A110(ピュア)

まずは一般道をノーマルモードで走る。サベルト製フルバケットシートは体形を問わずフィット感が高いのと座面の角度が絶妙なので、調整箇所は少ないものの適正のドライビングポジションが取りやすい。

高めのセンターコンソールによりコクピット感覚は非常に強く実際に座ってもタイトだが、軽量スポーツカーにしては高い視界性能と振動/異音の少なさなど、想像以上に快適な室内空間だ。

走り始めて驚いたのは、いい意味でミドシップの軽量スポーツカーに乗っていることを忘れることだ。

もちろん、ゆっくり走っていても軽さや低重心、前後重量配分の良さが起因する軽やかなクルマの動き、操作に対するノーズの反応の速さや一体感、明確なインフォメーション、素直な挙動などはヒシヒシと感じるが、いい意味で全ての部分に薄皮一枚挟んだかのような心地よいダルさを備えているようなイメージだ。ダイレクトだけど扱いやすさがあり、結果として気負いせず乗ることができる……と言うわけだ。

快適性はシッカリとしたボディに有効ストロークをシッカリと活かすHCCの効果も相まって、ルーテシア/メガーヌと錯覚してしまうくらいアタリが柔らかく滑らか。一般的には軽量なクルマは“走りの質感”を出しにくいと言われるが、A110にはそれは当てはまらない。シットリしなやか系の乗り味はGT的なキャラクターも備えており、長距離クルージングも苦にならない。

パワートレインも実用域ではターボラグをほとんど感じさせないフレキシブルな特性や低速域で若干ギクシャクするが車両重量の軽さがカバーするDCTのマナーの良さも相まって、「本当にスポーツユニット?」と思うくらいの扱いやすさである。

途中スポーツモードにしてみたが、ステアリング/エンジン/トランスミッションがよりダイレクト、よりレスポンス重視の味付けになるが、この辺りは完全に好みの問題。個人的にはノーマルモードで十分だと感じた。

鞭を入れると「やっぱりスポーツユニットだよね」と言うことに気付く

アルピーヌ A110(ピュア)

ただ、これらはA110の性能の序章。続いて、富士スピードウェイのショートコースをサーキット用の走行モード「トラック」でコースイン。

基本的には速度域が変わっても一般道を走らせた時と同じ印象である。ちなみにリリースには「積極的にスライドさせて走らせる特性」、「速さよりも気持ち良さを重視」と書かれているが、セオリー通りに走らせる限りはニュートラルにコーナーを駆け抜けるし、限界もコーナリングスピードもかなり高いレベルにある。

それでも、ドライバーがアクションを起こせば比較的容易にオーバーステアに持ち込むことが可能だ。と言っても、トラックモードはESP完全OFFではないので最終的には制御は入るのだが、軽くカウンターを当てるくらいの角度なら許容する。

アルピーヌ A110(ピュア)

この時のコントロール性もヒヤッとするものではなく、思わずニヤッとしてしまう感覚。ズバリ、どの領域であっても安心してドライバーを楽しませる走りが構築されているのだ。この辺りは鉄壁のスタビリティのポルシェ ケイマンや軽快だがシビアでドキッとするロータスとは違うアルピーヌ独自のテイストなのだろう。

一般道ではフレキシブルな特性に感じたエンジンだが、鞭を入れると吹け上がりの鋭さ、段付きないフラットなトルク特性、高回転までキッチリ回る特性など「やっぱりスポーツユニットだよね」と言うことに気付く。スペック的には252ps/320Nmだが、1100kgの軽量ボディとの組み合わせに、十二分な俊足ぶりを見せる。一般道ではネガを感じる7速DCTだがサーキットではダイレクト感の高さとレスポンスの良さにやはり「いいね!!」である。更に最新のエンジンにも関わらず、キャブ車を彷彿とさせるような豪快な吸気音と歯切れのいいサウンドの演出も、気持ち良さを倍増させている要因だろう。

A110は次世代のマルチパフォーマンスピュアスポーツ

アルピーヌ A110(ピュア)
アルピーヌ A110

最後にA110のテストドライバー・デビット・プラッシュさんの横に同乗(ESPは完全OFF)させてもらったが、振り回して走らせた際のコントロール性は抜群で、連続するコーナーをヒラリヒラリと駆け抜けていく姿に、「凄いな!!」と思いながらも、「これなら自分でもできるかも!?」と思ってしまったくらい懐が深いハンドリングだと感じた。

正直言ってしまうと、復活時は単なるリバイバル商品だと思っていたが、実際に乗って考えが改まった。A110は次世代のマルチパフォーマンスピュアスポーツと呼びたい。「速さは慣れるが、楽しさは永遠に残る」、マツダ ロードスター以外に久々にそんな事を気付かせてくれた一台である。

[筆者:山本 シンヤ/撮影:茂呂 幸正]

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