【林昌範の目】ソフトバンク甲斐が証明「プロは指名順ではなく、入団してからが勝負」

ソフトバンク・甲斐拓也【写真:藤浦一都】

プロの頂点の戦いにふさわしく、見応えがあった日本シリーズ

 日本シリーズはソフトバンクが4勝1敗1分けで制し、2年連続9度目の日本一に輝きました。このシリーズを見ていて感じたのはソフトバンクのベンチのまとまりです。特に印象的だったのが、スタメンを外れた松田選手、このシリーズでは調子の上がらなかった内川選手が犠打を決めた後にベンチに戻った後の姿です。あれだけの実績がある選手が内心非常に辛い気持ちのはずなのに、ベンチで大声を出して明るく振る舞う姿に感動しました。若手選手はその姿を見てやはり何かを感じ取ることだと思います。

 また、内川選手に2度の犠打を命じ、成功した後に帽子を取り頭を下げた工藤監督。監督としてなかなかできることではないと思いましたが、すべての行動がチームがまとまる要因になったのではないかと思いました。

 そして、育成選手史上初の日本シリーズMVPを獲得した甲斐選手の存在が非常に大きかった。強肩で盗塁阻止率10割と広島の勢いを止めたといってもおかしくありません。カープの野球は盗塁だけではなく、「常に次の塁を狙いに行く姿勢」が特徴です。相手からすると非常に脅威で、投手も走者を出すとマウンドでいろんなシチュエーションを考えなければいけないため、ストレート系の球種が増えたり、コントロールが若干狂って失投を痛打される結果が生まれやすくなります。

 ソフトバンクの投手はその反対のことがマウンド上で起きていました。走者が出ても最低限のこと(クイックや首の動きを使って走者を意識)さえしておけば甲斐選手が盗塁を阻止してくれるので、打者に集中しやすい環境が作れていたように感じます。広島ベンチも甲斐選手という大きな壁に対して1回でも盗塁が成功できたら崩せる、そしてシーズン中のカープの野球を出せれば勝てるという想いがあったと思います。このぶつかり合いはプロの頂点の戦いにふさわしく、ファンの方たちも見応えがあったのではないでしょうか。

 甲斐選手が育成契約からプロ野球の門をくぐって支配下契約をつかみとり、そして日本シリーズMVPを獲ったことは多くの選手に夢と希望を与えたと思います。先日ドラフト会議が行われましたが、プロの世界は入団した順番が全てではなく、入団してからが本当の実力勝負だということを甲斐選手が証明してくれました。日本シリーズも終わり野球ファンの方々は試合が見られなくなり寂しい季節になりましたが、今まさに「第2の甲斐選手」になろうと若い選手たちは秋季キャンプで汗を流しています。ファンの方たちも大きな可能性を秘めた選手たちを見つけに行かれてはいかがでしょうか。最後に選手の皆様、1年間本当にお疲れさまでした!(元巨人、日本ハム、DeNA投手)文/構成 ココカラネクスト編集部 平尾類

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