下痢、嘔吐で死に至る病 地域の絆で感染を防ぐ!

「感染が分かり、ショックで怖かったです。私は死ぬのだろうと……。娘を残して逝けないと思いました」。25歳のアトラス・ムリマさんはこう振り返る。

今年9月上旬以降、ジンバブエの首都ハラレでコレラが流行している。4000人余りの死者を出した2008年の大流行に次ぐ規模で感染が拡大しており、9月12日に流行宣言からこれまでに9000人の感染、42人の死亡が確認された。 

アトラスさんは、隣接する西マショナランド州から姉を訪ね上京中にコレラを発症。激しい下痢や嘔吐(おうと)、頭痛、落ちくぼんだ両目といった症状が見られ、コレラと診断された。「地方でコレラにかかることはまれです。首都での流行の噂は聞いたことがありましたが、まさか自分がかかるとは」。 

治療を受けなければ死に至ることも

コレラ治療センターでは、経口や静注点滴で水分を補給する

コレラ治療センターでは、経口や静注点滴で水分を補給する

コレラは感染力が強く、コレラ菌に汚染された水や食べ物を通じて感染する。重度の脱水症状を引き起こし、治療を受けなければ数時間以内に命を落とすこともある。

安全な飲み水や衛生環境が整っていれば予防はたやすい。だが、ハラレの水道網は老朽化しており、水不足と水質汚染を招いている。住民は不衛生な生活用水を使わざるを得ず、水を媒介とした感染症がまん延しやすいのだ。 

MSFが設置した井戸で水を汲む地域保健サークル会員

MSFが設置した井戸で水を汲む地域保健サークル会員

そこで国境なき医師団(MSF)は、感染リスクの高い人口密集地に安全で清潔な水を届けるための活動を展開。井戸の設置や補修に取り組んでいる。

この活動で最も重要なことは、「地元住民が自ら水場を維持・管理する」という点だ。研修を受けた住民からなる委員会が監督し、月額使用料を支払った会員に給水する。現在、修復された井戸70基余りを、13区60余りの“地域保健サークル”が管理している。 

地元ボランティアが感染拡大を食い止める

グレンビュー地区の保健委員、レイチェル・マロザさん

グレンビュー地区の保健委員、レイチェル・マロザさん

2015年から始めたこの活動は、徐々に実を結びつつある。今年9月の流行発生時には、直後から地域保健サークルの委員が戸別訪問で周辺住民に情報を伝え、コレラ拡大を予防した。

メンバーの1人、レイチェル・マロザさんはこう語る。
「コレラの原因や予防方法についても事前に学んでいましたから、地元の人たちにすぐ伝えることができたんです。塩素消毒した清潔な水も用意していました」

特に流行が深刻な4つの地区で、16の地域保健サークルが活動。地域住民8000人余りのうち、感染の疑い患者はわずか4人だった。保健衛生に関する啓発と安全な水の提供が、コレラ拡大を食い止めたとみられる。

コレラ流行時にMSFが行う緊急援助に加え、地元住民が担う地道な活動が、コレラ予防の長期的な解決策となるかもしれない。 

MSFは2000年からジンバブエで活動。2008年以降、首都ハラレを中心に度々発生するコレラと腸チフスの流行に対応している。2018年だけでも合計8回のコレラまたは腸チフスの流行で現地保健省を支援。看護師、水・衛生専門家、ロジスティシャンを主要地域に配置したほか、コレラ治療センターで患者の治療や感染予防などを援助。さらに、保健省がコレラ抑止策として展開する集団予防接種2件の計画・管理を支援。ハラレ郊外の6地区で合計約76万人が接種を受けた。 

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