MINI ジョンクーパーワークス(F56) 試乗│ダイレクト感&スポーツ性とコンフォート性を両立させ、現代を生きるJCW

MINI F56 JCW

注目はコネクティビティやデザイン面の変更だけにあらず!

MINI F56 JCW
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2018年5月、MINIのマイナーチェンジが行われた。この際のトピックスは車両そのものに通信機能を持たせることで、コネクティビティを強化するといったイマドキなものから、左右非対称のテールレンズを持つといったデザイン面が注目された。

だが、よくよく聞けば、今回はミッションの変更がかなりのキモ。新開発の7速ダブル・クラッチ・トランスミッションと8速のスポーツATを搭載したことが興味深い。

ここにあるJOHN COOPER WORKS(以下JCW)の2ペダルモデルは、マイナーチェンジ前の6速から8速のスポーツATへと変更された。ONEやCOOPER系の2ペダルはすべてダブル・クラッチを持つ7速DCTなのに対し、JCWだけはトルクコンバーターを持つATを採用していることは相変わらず。スポーツ系のトップモデルとなれば、ダイレクト感が強いDCTのほうがキャラには合っているように思えるのだが、その狙いは何だろう?

その感覚たるやまるでミッションカートの加速のよう

MINI F56 JCW
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久々にワインディングで触れたJCWは相変わらずの佇まいで、ドライバーズシートに滑り込めばホールド性の高いシートが身を包んでくれる。

走り出せば剛性感の高いブレーキペダル、ダイレクト感溢れるステアリングホイールなど、そのテイストはよく言われる通り、ゴーカート感覚と言っていいだろう。カッチリしたその雰囲気は、さすがはJCWである。

SPORTSモードを選択して走れば、エンジンは鋭くけたたましく吹け上がり、8速の細かく刻まれたギアによってテンポ良く加速を続けてくれる。その感覚たるやまるでミッションカートの加速のよう。高回転を維持しながら次々にシフトが繰り返される気持ち良さ、それが8速のスポーツAT化だからこそできた世界観だろう。

もちろん、高速巡行時における燃費を稼ぎたかったということもあるに違いないが、それだけで終わらず、お楽しみに使っているあたりがJCWらしい仕上がりだ。

MINIは走る人の気持ちを考えてくれている

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パドルシフトの応答性も良く、セレクターをマニュアル方向に倒しておけば、ギアが完全固定されるところもワインディングでは扱いやすい。

Dレンジでパドルシフトをする場合は、シフトアップはレブリミットが訪れたところで自動アップとなる。他社ではそれが選択できない場合が多いが、MINIではドライバー次第で選べるようになっているところが好感触。走る人の気持ちを考えてくれているところが嬉しい。

スロットルに対する応答遅れもなく、DCTと変わらぬダイレクト感が味わえる仕上がりもまた驚きだ。ATであってもいまやガツンと来るダイレクトさがあり、例えば低μ路で全開加速をして1速から2速へとシフトアップをすれば、タイヤが一瞬キュッと悲鳴を上げるほどなのだ。

カミソリのように鋭く、ヘタをしたらスピンするのではないかと思えるほどにシャープ

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また、今回のクルマはアダプティブ・サスペンションがオプション装備されていることもあって、SPORTSモードを選択すると足回りがかなり引き締められる。

ダイレクト感溢れ、ステアしたと同時にリアが追従してくる感覚は他では味わえない鋭さだ。

ブレーキング時におけるリアの追従性も良すぎるほどで、リアタイヤと相談しながらコーナーにアプローチしなければならない。まさにカミソリのように鋭く、ヘタをしたらスピンするのではないかと思えるほどにシャープだ。

もちろん、最終的にはそこは電子制御デバイスが助けてくれる造りなのだが、安全にそんな感覚を味わうことができるのだから贅沢だ。ワインディングでこの鋭さは疲れてしまう人もいるのだろうが、僕はむしろヤミツキだ。いつまでも帰りたくないと騒ぐ子供のように、同じ道を何度も往復してしまった。

どのような路面でも受け入れられるメリハリ加減がいまのJCWの世界観

MINI F56 JCW
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だが、その楽しい時も時間切れとなり帰路につく。すると、そこで新たな一面をJCWは見せてくれた。

GREENモードを選択して走れば、ダイレクトさを展開していたATはシフトショックがマイルドに改められ、低回転で次々にシフトアップを繰り返し静かに巡行する。さらにはサスペンションも減衰力を緩められ、しなやかに改まったのだ。

かつてJCWといえば、常に飛び跳ねるような乗り心地であり、それは仕方がないことなのだと受け入れていたことがあるが、それは過去のもの。どのような路面でも受け入れられる体制がいまはある。このメリハリをつけた世界こそ、いまのJCWの良さだ。そこを達成するためには8ATとアダプティブ・サスペンションが必要だったということなのだろう。

目的を叶えるためには手段を択ばないというパイオニア精神

モータージャーナリストの橋本洋平 氏
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かつて若き日のジョン・クーパー氏はフロントエンジンばかりだった時代のF1に対して、リアエンジンのクルマを投入。その後、リアエンジンのクルマとして初のチャンピオンを獲得している。それから3年が経過したF1は、すべてがリアエンジン搭載車になっていたという逸話がある。目的を叶えるためには手段を択ばないというパイオニア精神こそが、ジョン・クーパー氏の生き様だったのだろう。

そんな血統ならば、今回のJCWのみがDCTではなく8速スポーツATということも頷ける。

ダイレクト感だけでなく、街乗りにおけるコンフォート性能を稼ぐにはどうしたら良いのか? そこで辿り着いたのが8速スポーツATということだったのではないだろうか?

もちろんそこにはATの進化があったからこそ。ダイレクト感&スポーツ性とコンフォート性という両立が難しい状況を成立させたところに価値があるように感じる。スポーツだからDCTという考えは、そろそろ終わりに近づいているのかもしれない。

[筆者:橋本 洋平 撮影:茂呂 幸正]

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