検証 長崎市政 田上市長の3期 <公会堂廃止> 文化活動の衰退懸念も

 長崎市が2015年3月に魚の町の市公会堂(1751席)を廃止したあおりを受け、茂里町の長崎ブリックホール大ホール(2002席)や魚の町の市民会館文化ホール(977席)の稼働率が高まり、文化団体にしわ寄せが来ている。

 「来年は市民会館をなんとか押さえたが、キャパが小さいので対応を考えないといけない。こんな綱渡りが今後も続くのか」-。毎年、公会堂で発表会を開き千数百人の観客を集めてきた「かとうフィーリングアートバレエ」主宰、加藤真知(68)はため息をつく。

 公会堂廃止後、ブリックホールの稼働率は60%台から80%台、市民会館は50%台から60%台へ上昇。市民は抽選で優先予約できるが競争率は高い。加藤は「『もう発表会はしなくていい』という団体もある。市民の文化活動への意欲が徐々に下がっている」と嘆く。

 公会堂を巡っては、解体前の2016年に2度、市民団体が解体中止と再使用の是非を問う住民投票の条例制定を長崎市に請求した。文化活動への支障や、原爆で壊滅した長崎の復興を象徴する施設として建設された歴史的価値を訴え、改修すべきと主張した。

 対する長崎市は施設の老朽化と耐震不足が深刻で改修も非効率と指摘。跡地に新市庁舎を建設する従来方針を崩さなかった。長崎市長の田上富久は住民投票条例案に対し、解体予算が議会で認められていると強調し「議論を尽くし決定してきた方針に沿ってまちづくりを進めることが私の責務」として反対した。

 「市の都合が最優先。聞く耳を持たない」。ある文化団体関係者の目に田上はこう映る。長崎市議会内には「穏やかそうだが相当頑固」「住民投票請求に至った根底には市民との対話不足がある」との田上評もある。

 長崎市は、旧県庁舎跡地(江戸町)に公会堂の代替ホールとなる新文化施設の整備を目指し、県との協議は「終盤に近づいている」(田上)。ただ新施設完成までは順調にいっても5~6年はかかる見通しで、文化活動への支障は当面続く。

 10月24日、公会堂存続を求めたメンバーを含む市民有志約40人が市内で新文化施設についてアイデアを出し合う初会合を開き、最後に参加者の感想が紹介された。「市民の力が成功の鍵」「公会堂は良かった」などの意見に交じって、こんな声まで上がり、会場が少しざわついた。「市民の声を実現してくれる人を選挙で選びたい」(文中敬称略)

解体される長崎市公会堂。解体中止と再使用の是非を問う住民投票は実現しなかった=2017年6月23日、長崎市魚の町

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