【素材技術で新市場に挑む シリーズ「EV化」企業編(10)】〈日鉄ケミカル&マテリアル〉LIB負極材の原料コークス、コールタールから製造 供給力に強み、需要拡大で商機

 電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)の普及に伴い、需要拡大が見込まれるのがリチウムイオン電池(LIB)の電極材料。新日鉄住金グループの日鉄ケミカル&マテリアル(NSC&M、本社・東京都千代田区、社長・太田克彦氏)は、負極材の主原料となる石炭系コークスの有力メーカーだ。

 同社の製造するコークスはニードル(針状)コークスと呼ぶ電気炉用・人造黒鉛電極の主原料として知られるが、この石炭系コークスは同時に、LIB負極材の原料にもなる。

 新日鉄住金の製鉄所にあるコークス炉で副生するコールタールが大本の原料。このコールタールの蒸留をはじめとするコールケミカル事業を担うのが全額出資子会社のシーケム(本社・同、社長・林岳志氏)だ。

 負極材用のコークスは、コールタール中に含まれる軟ピッチと呼ぶ重質油からつくる。蒸留したタールから生コークスを製造する設備が九州製造所(北九州市)にあるディレードコーカー(重質油分解装置)。負極材メーカーへは通常、この装置でつくった生コークスを出荷する。生コークスをさらに高温加熱すると、か焼コークスができ、これが主に電極用のニードルコークスとなる。

 EVやPHEVの普及に伴い負極材の需要は急速に拡大する見通しだ。これは同時に原料コークスの需要増を意味する。黒鉛系原料には人造系と天然系があるが、電池の容量を大きくするには人造系の使用を増やす必要があるとされ、人造系の需要は2020年にかけて現行の1・7倍に増えるとの試算もある。

 負極材の原料メーカーに求められるのは、品質の高さに加え、安定的に供給できるかどうかだ。需要が拡大する局面では供給力の有無が原料メーカー選別の重要な要素となる。その点、コールタールを安定的に調達できるNSC&Mは優位な位置に立つ。

 現在の負極材(車載LIB用)向け出荷量は、石炭系コークス全体の数%にとどまる。需要がどの程度のスピードで拡大していくかは今のところ不透明だが、有力原料メーカーとして、販売拡大の機会をうかがう。

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