【Brain Police Road to 50th Anniversary PANTA(頭脳警察)暴走対談LOFT編】第2回 大槻ケンヂ(筋肉少女帯)-「時代はサーカスの象にのって」の最初の一行は僕にとって生きる支えなんです

はっぴいえんどがストレッチをしていた衝撃

──PANTAさんは、オーケンさん主催の『オーケンののほほん学校 〜心のインスタ映え!夏の最後の思い出作りSP!〜』(2018年8月23日、ロフトプラスワン)にゲスト出演されたばかりですね。

大槻:このあいだの『のほほん学校』でPANTAさんから聞いて良かったと思ったのは、はっぴいえんどの話ですね。遠藤賢司さんの追悼ライブの時にPANTAさんが細野晴臣さんと話をされていて、「エッ、どういうつながり!?」と思ったら、実は過去にいろいろあったと。学祭で頭脳警察がライブジャックしようとした時に、はっぴいえんどがストレッチをしていたそうなんですよ。

PANTA:そう、ステージの裏でね。

大槻:あのはっぴいえんどがストレッチですよ!? 日本のロック史はほぼ語り尽くされた感がありますけど、これからはそういう話をどんどん掘り下げていかなきゃいけないんじゃないか? と思って。

PANTA:どのロック史の本にも書いてないからね(笑)。伝説の中では頭脳警察とはっぴいえんどが乱闘事件を起こしたってことになってるんだけど(笑)。あの慶応三田祭事件のいきさつは一冊の本になるくらいいっぱいあるよ。

──オーケンさんとしては両者がいがみ合ったことよりも、はっぴいえんどがストレッチしていたことに衝撃を受けたと(笑)。

大槻:うん。日本のロック・バンドはけっこう舞台袖でストレッチをしてるんですよ。では欧米のロック・バンドはストレッチをしているのだろうか!? という疑問が常にあって、もしかしてバンドがライブ前にストレッチをするのは日本固有のロック文化じゃないかなと思って。こういうとこ、文化比較として大切(笑)。

PANTA:俺はライブが終わって三三七拍子をやるのがどうにも抵抗があってさ。ロック・バンドが三三七拍子なんて格好悪いじゃない?

大槻:80年代まではやってましたね。あと一本締め。ヨーオッ、チャッ! って。

PANTA:一本締めはいまだにやってるよ。

大槻:頭脳警察はやりますか?

PANTA:俺たちはやらないよ(笑)。

──三田祭事件はTOSHIさんがPANTAさんをけしかけたのがきっかけだったんですよね?

TOSHI:そういうことにしておきましょうかね。悪いのはすべて私です(笑)。

PANTA:その通りだよ(笑)。

TOSHI:あの日は昼間から学祭を2、3カ所回って、最後が三田祭だったんですよ。ちょっと遅れて行ったら主催者から「頭脳警察がステージをやる時間はない」と言われて、こっちも疲れていたせいかカチッときたんですね。それで「PANTA、やるか?」ってけしかけて、勝手にステージに上がったわけです。

──昔からTOSHIさんは血の気が多いタイプだったんですか。

TOSHI:いやいや、今も昔も子羊みたいに大人しい性格ですよ。

PANTA:よく言うよ(笑)。その昔、かつての霞町、今の西麻布にあった頭脳警察オフィスにみんなで寝泊まりしてたんだけど、朝起きるとTOSHIと粟野(仁)が「ちょっと出かけてくる」って言うわけ。夕方になって2人が帰ってきて、どこに行ってたのか訊いたら「三里塚で石を投げてきた」って言うんだよ。ピクニックにでも行くみたいな感じで言うなよ!(笑)

TOSHI:昔はスポーツ感覚で石を投げてたからね(笑)。

PANTA、SHOW-YAを筋肉少女帯と勘違い

──改めてオーケンさんとPANTAさんの出会いの話を聞かせていただけますか。

PANTA:昔、仙台で『ロックンロールオリンピック』というロック・フェスがあって(1988年8月7日に開催された第8回)、リハーサルの時に寝転びながらステージを見ていたら女の子のバンドが演奏していて、「ああ、あれが筋肉少女帯か…」と思ったの。

大槻:その時点ですでに間違ってますね(笑)。

PANTA:打ち上げもその女の子のバンドのボーカルと仲良く話をしててさ。で、東京に帰ってきて、行きつけの店に行ったら本城(聡章)と内田(雄一郎)とオーケンが来て、「あれ? 俺が話してた筋肉少女帯のメンバーと違うな」と思って。じゃあ俺が見たあの女の子のバンドは何だったんだ? と思ったら、実はSHOW-YAだったんだよね(笑)。

大槻:打ち上げで話をしていたのは寺田恵子さんだったと(笑)。長期的に間違えてらっしゃったのがすごいですね。でも、そういうことってありますよ。私事ですが、高校の頃にレコードプレーヤーを持ってなかったので、内田君にレコードをカセットテープに録ってもらってたんですよ。頭脳警察も彼に録ってもらって聴いてたんですね。同じようにトーキング・ヘッズとピーター・ガブリエルを90分テープのA面とB面に振り分けて録ってもらったことがあったんですけど、ずっと逆に覚えていたんですよ。3年間くらいトーキング・ヘッズがピーガブで、ピーガブがトーキング・ヘッズだと勘違いしていたんです。だから筋肉少女帯がSHOW-YAでも全然問題ないですよ(笑)。

──オーケンさんは高円寺の貸しレコード屋で頭脳警察と出合ったんですよね。

大槻:そうです。最初は中学生の頃にラジオの深夜放送で知ったんですけどね。当時、「ふざけるんじゃねえよ」がけっこうかかっていて、それに衝撃を受けたんです。ある時、学校の帰りに内田君と2人で高円寺のパラレルハウスっていう貸しレコード屋に行ったところ、「日本のアングラ・ロック」みたいな棚があって、そこに異様なオーラを放つレコードばかりが置いてあったんですよ。

──御茶ノ水のジャニスみたいな感じの?

大槻:ジャニスよりもコアな感じでしたね。そこで内田君が頭脳警察のレコードを借りようとしたら、学生服を着た僕らをチラ見したお店の人に「君らがこれを聴くの?」って言われたんです。「はい、すいません!」って感じで答えましたけど(笑)。僕らの世代だと頭脳警察はすでに解散していたので完全に後追いだったんですが、初期の頭脳警察はフォークとロックが混合してるようなイメージがありましたね。その後、高校生の時にバンドを組んで新宿ジャムに出たんですけど、そこでやったのが頭脳警察の「ふざけるんじゃねえよ」、PANTA & HALの「ルイーズ」、ヒカシューの「20世紀の終りに」、レインボーの「ALL NIGHT LONG」だったんです。いま思えばムチャクチャな選曲でしたね(笑)。ちなみに、僕が初めて生の頭脳警察を観たのは日清パワーステーションでした。

PANTA:ああ、再結成した時だ。

──1990年6月15日に行なわれた活動再開ライブですね。

PANTA:関係者だけで500人くらい入ったライブだね。動員人数が第1位で、その記録がいまだに破られてない。でも別に褒められたことじゃないんだよ。タダで観たヤツがそれだけ多かったってことだから。

大槻:あの日、僕は2階で観てたんですけど、TOSHIさんが火のついたタバコを客席にポンポン投げていて、うわー、これはすごい! と思ったんですよ。

TOSHI:そんなことしてない、してない。

大槻:してないですか? あれぇ、じゃあ何を投げてたんだろう?

──石じゃないですか?(笑)

大槻:たしか最後にTOSHIさんがパーカッションを全部ガチャーン!とひっくり返したんですよ。

TOSHI:ああ、それはやった(笑)。

PANTA:それで警備の人がシンバルにぶつかって頭を怪我しちゃって、俺が謝りに行ったんだよ。楽屋で「なんでお前が謝らないんだよ!?」ってTOSHIと大ケンカになって、結局アンコールがなくなったんだよ。

大槻:そうだ、あの日はアンコールがなかったですね。そういうことだったのかぁ…。

頭脳警察とティラノザウルス・レックスの類似性

──PANTAさんは筋肉少女帯をちゃんと認識して以降、ライブをよくご覧になっていますよね。

PANTA:皆勤賞ではないけど、渋公とかいろんな所でよくライブを観て楽しませてもらってるよ。何回かゲストで出たよね?

大槻:頭脳警察ではないですけど、PANTAさんには『筋少ちゃん祭り』に出ていただいたことがありました(1992年3月23日、日清パワーステーションで開催された『筋少ちゃん祭りVol.4 〜筋少の大車輪〜』に筋肉警察として出演)。その時は何をやったかなぁ…?

PANTA:たしか俺が「釈迦」を唄ったんじゃなかったっけ?

大槻:ああ、ありましたね。僕、PANTAさんがアリス・クーパーのメイクをしてアリス・クーパーのカバーをやってるのを観たことがあるんですよ。

PANTA:『グラムロック・イースター』(マーク・ボランの命日である9月16日に行なわれているアキマツネオ主催の追悼ライブ)だね。アリス・クーパーのメイクをして、サーベルを持って暴れたやつ。そこまでやるなら来年はKISSをやろうと思ったんだけど、アキマを始め『グラムロック・イースター』のメンバーから猛反発を喰らってね。「KISSはグラム・ロックじゃないでしょ!」って言われて。

大槻:グラム・ロックと言えば、僕はずっと気になってることがあるんです。頭脳警察のギターとパーカッションという編成、PANTAさんのカーリーヘアってマーク・ボランとそっくりじゃないですか。頭脳警察とT.REXの関わりってどういうことなんだろう? と思って。

PANTA:俺はティラノザウルス・レックスの『ユニコーン』ってアルバムが大好きでね。頭脳警察は最初にメンバーが5人いたんだけど、ギターとベースがケンカして、ほぼ同時にやめることになったわけ。その後にもう1人もやめて、俺とTOSHIだけになってしまった。そこでメンバーを探せばいいのに、ティラノザウルス・レックスみたいにギター&ボーカルとパーカッションだけの編成でやってもいいんだと思ったんだよね。それでドラムだったTOSHIに「俺がギターを弾くからお前はボンゴをやれよ」って言ったんだよ。

大槻:なるほど、それでマーク・ボランとミッキー・フィンみたいな編成になったんですね。

PANTA:うん。あとでアキマに聞いたら、ティラノザウルス・レックスも最初は3人だったのが2人になったんだって。俺たちも2人になっちゃったけど、自分としてはフル・バンドのつもりでバンドをやってた。アコースティック・ギターをツインリバーブに突っ込んで、常にボリューム10の大音量でね。

大槻:ティラノザウルス・レックスからの影響がある曲もあるんですか?

PANTA:あると思うよ。ちょっと先の話だけど、毎年恒例の『UNTI X'mas』でアキマと2人でティラノザウルス・レックスをやろうかって話もしてるしね。オーケンも『UNTI X'mas』に出る?

大槻:考えておきます(笑)。話を戻すと、頭脳警察を最初に聴いた時、どんな音楽の影響下にあるんだろう? と思ったんですよ。

PANTA:その意味ではフランク・ザッパかな。マザーズ・オブ・インヴェンションの「Who Are the Brain Police?」という曲があって、“Brain Police”を直訳して頭脳警察というバンド名にしたわけ。ポリスが来日した時にスティングと対談したことがあるんだけど、彼が言うには、ジョージ・オーウェルの『1984年』に“Thought Police”(思想警察)という秘密警察が出てくると。ザッパはそれに影響を受けたんじゃないかと話してたね。

大槻:スティングに会っておられるんですか。実は僕もスティングと対談したことがあるんですよ。まさかのスティングつながりですね(笑)。

PANTA:俺はそのスティングとの対談の時、アンディ・サマーズがその場に来たら帰ろうと思ってたんだけどね。

大槻:何かあったんですか?

PANTA:昔、ちょっとイヤなことがあってね。アニマルズが来日した時、楽屋でエリック・バードンと仲良く話してたの。そこにアンディ・サマーズがやって来て、こっちが「ハロー」って挨拶したのにプイッと横向きやがってさ。人の挨拶を無にしやがって、なんだこの野郎! と思って。

大槻:そうだ、ポリスのアンディ・サマーズって60年代の末期にアニマルズにいたんですよね。エリック・バードンと何の話をしていたんですか?

PANTA:何だろう、マリファナの話かな?(笑)

──暴走対談らしくなってきましたね(笑)。

PANTA:アンディ・サマーズの話をスティングにしたら、彼は一生懸命言い訳をしてくれてさ。「あの時はアンディも騙されて大変だったんだよ」って。ポリスとして来日する時も、飛行機の中で「今度は大丈夫だろうな?」ってものすごくナーバスになっていたらしくて。

──1968年にアニマルズが来日した時、バンドのマネジメントと日本のプロモーターが揉めて、バンドが機材一式を置いて逃げるように帰国したらしいんですよね。アンディはそれで自分のレスポール・ジュニアを失ったことをいつまでも悲しんでいたそうです。

大槻:だけど、スティングに懸命に言い訳をさせるPANTAさんもすごいですよね。世界レベルの話じゃないですか(笑)。

PANTA:スティング自身は世界レベルだけど、言い訳は個人レベルだよ(笑)。

ワールドワイドすぎる内田裕也の話

大槻:僕は1966年生まれなんですけど、頭脳警察が出てきた辺りから日本のロック・バンドの時系列がよくわからないんですよ。同期のバンドって誰かいるんですか?

PANTA:裸のラリーズやジャックスとかはほぼ同期だね。ちょっと後がフラワー・トラベリン・バンド。

大槻:なるほど。ちなみに僕はジュン・スカイ・ウォーカーズと同期です(笑)。

PANTA:オーケンの世代は同期が大勢いるよね。このあいだシシド・カフカが嘆いてたよ。「オーケンさんの世代は同期がいっぱいいるけど、私たちの世代は全然いない」って。

大槻:シシド・カフカ!? それはまた意外なつながりですね。

PANTA:彼女は大学生の頃に『グラムロック・イースター』でドラムを叩いてたんだよ。学校帰りで間に合えばドラムを叩いて、間に合わなければパーカッションをやるって感じでね。まだカフカを名乗ってない頃だったけど。

──PANTA & GALですね。

PANTA:うん。PANTA & HALの“HAL”は、“IBM”の一歩先を行くという意味で名づけたんだよ。アルファベット順で言えば“I”の前の“H”、“B”の前の“A”、“M”の前の“L”ということでね。じゃあ今度は“H”の一歩先を行ってやれと思って、“H”の前の“G”、“GAL”ってことにしたわけ。シシド・カフカがドラム、Ma-T(磯貝真由)がギター、BARBARSの田中未希ちゃんがベースでね(2016年9月16日に渋谷クラブクアトロで開催された『グラムロック・イースター Vol.30』)。なかにはマジメにリアクションしてくる人がいて、「PANTAさん、彼女たちはもうギャルっていう歳じゃないと思うんですけど」とか言われてさ。そういう意味じゃないんだよって(笑)。

大槻:TOSHIさんにもいろいろ伺いたいんですけど、初台ドアーズでやった遠藤ミチロウさんの53歳の誕生日ライブ(2003年6月15日、『53〈ゴミ〉になる日 Vol.1』)でたしかTOSHIさんとご一緒させていただいたと思うんですよね。僕は魔術師対奇術師というユニットで出て、TOSHIさんはNOTALIN'Sとして出演されていて。

TOSHI:ごめんなさい、記憶がもうどんどん薄れてしまって(笑)。

PANTA:さっき楽屋で「今年は『ニューイヤーロックフェスティバル』に頭脳警察として出ようと思ってるんだ」という話をオーケンにしたら、オーケンも『ニューイヤー〜』に出たことがあると聞いてびっくりしたんだよね。

大槻:筋少で2回出たことがあるんですよ。1986年、87年だったかな。

PANTA:無傷で済んだの?(笑)

大槻:それは大丈夫でした(笑)。楽屋ですごい酔っぱらった内田裕也さんと、フリーやフェイセズのベースだった山内テツさんがお話しされていて、裕也さんがすごい話をしていたんですよ。「テツと初めて会った時、テツとロッド・スチュワートがケンカしてるのをオレが止めたんだよな。いや、あれはマーク・ボランだったか?」って。テツさんと喧嘩したのがミック・ジャガーだったかもしれないんですけど、僕もあまりに驚いて記憶が定かじゃないんですよ。

PANTA:裕也さん方面に話を広げるのやめない? いろんな意味で止まらなくなっちゃうからさ(笑)。

大槻:……あっ! いま急に思い出したんですけど、復活した頭脳警察と僕でBSか何かの番組で共演させてもらいましたよね?(2008年4月22日に放映されたWOWOWの『コラボ☆ラボ 〜夢の音楽工房〜』)

TOSHI:あったね。横浜のスタジオかどこかで収録して。

大槻:ですよね? たしか「悪たれ小僧」をご一緒させてもらって。

PANTA:CHAGEが司会の番組?

大槻:CHAGEさんが司会? ASKAさんではないですよね?(笑)

PANTA:CHAGEとあやや(松浦亜弥)が司会だったはずだよ。

大槻:そうだ、そうでした。

──「悪たれ小僧」と「コミック雑誌なんかいらない」と「Blood Blood Blood」の3曲をコラボした番組ですね。

PANTA:あの時はちょうど中国のチベット自治区でチベットの独立を求める暴動が起きていて、チベット支援のステッカーを楽器や機材に貼ってカメラに映るようにした覚えがある。

大槻:「Blood Blood Blood」は僕が好きで、ぜひご一緒したいとお願いしたんですよ。あの曲は再結成後のアルバム(『頭脳警察7』)に入ってましたけど、ほぼ一発録りだったんですか?

PANTA:「Blood Blood Blood」はよく覚えてないけど、「腐った卵」はスタジオで何も決めずに全部アドリブでやった。

大槻:へぇ。フリー・インプロビゼーションだったんですね。

PANTA:ブースのガラス越しに演奏を見ながら歌詞もその場で作っていったんだよね。

「コミック雑誌なんかいらない」のオリジナルとカバーの違い

PANTA:ところで、最近のオーケンは詩の朗読という新しい世界を見いだしてるよね。このあいだ『鬱フェス』でオーケンがアーバンギャルドと一緒にやったユニットも素晴らしかったしさ。

大槻:ありがとうございます。筋肉少女帯とはまた別にロックに乗せた大槻ケンヂミステリ文庫、略してオケミスというソロ・プロジェクトを始めたんですよ。ポエトリー・リーディングみたいなものをずっとやってみたかったので。

PANTA:詩はオリジナルなの? 中原中也とかの詩を読むんじゃなくて?

大槻:オリジナルです。頭脳警察もこのあいだ出たライブ・アルバム(『BRAIN POLICE RELAY POINT 2018』)で「時代はサーカスの象にのって」の前に朗読を入れてますよね。あれは寺山修司の舞台か何かの引用なんですか?

PANTA:寺山修司のいろんな詩から抜粋して『アメリカよ』というタイトルでまとめてみたんだよ。

大槻:あの詩の朗読の後ろで聴こえるTOSHIさんのパーカッションが素敵ですよね。

TOSHI:ありがとうございます。

大槻:僕は『ドキュメンタリー 頭脳警察』の中でTOSHIさんが書道家の方とコラボレーションしていたのが強く印象に残ってるんですよね。

TOSHI:ああ、打楽器のソロでね。ふざけたことをしてすいません(笑)。

大槻:何をおっしゃいますか(笑)。

──「さようなら世界夫人よ」はヘルマン・ヘッセの詩をそのまま採り入れていますよね。

PANTA:俺が17歳の時にたまたま本屋で手に取ったヘルマン・ヘッセの詩集に「さようなら世界夫人よ」という詩があって、衝撃を受けてね。まだ著作権という概念も知らなかったので、勝手に曲を付けちゃったんだよ。でもずっと発売禁止が続いてたからJASRACへの申請を拒否してたんだけど、去年いきなりJASRACから連絡があってね。猫なで声で「申請してください」って。45年を経て初めて曲が認知されましたよ(笑)。

大槻:へぇ。「さようなら世界夫人よ」は作詞ヘルマン・ヘッセになってるんですか?

PANTA:うん。

大槻:すごいなぁ。ヘルマン・ヘッセを知ったのは頭脳警察のおかげかもしれませんね。ヘッセの詩は読んだことないけど(笑)。……そうだ、詩で思い出しました。僕はたまに諸先輩方の歌詞を引用させてもらうことがあって、頭脳警察だと「ふざけるんじゃねえよ」の「ふざけるんじゃねえよ 動物じゃねえんだぜ」という歌詞を、僕のやっていた特撮の「ヨギナクサレ」という曲で一行まるまる使わせてもらったんです。

PANTA:何だと!(笑)

大槻:当時、PANTAさんには直接お願いしに行ったんですよ。そしたら「光栄です」って言われまして。

PANTA:この前、紀伊國屋ホールにお芝居を観に行ったら、主宰の鴻上尚史さんが、かつての劇団のDVDを持ってきて「これに曲を使わせてもらったから!」と言われて、いきなり渡されたんだけど、そういうのは使う前に言ってくれよって(笑)。

大槻:頭脳警察ってけっこうそういう使われ方をしますよね。

PANTA:そうだね。『コミック雑誌なんかいらない!』っていう映画もあったし。……って結局、裕也さんの話になっちゃうんだよな(笑)。「コミック雑誌なんかいらない」はもともと頭脳警察のオリジナルなんだけど、今や裕也さんの持ち歌みたいになっちゃってるよね。まぁしかし、『コミック雑誌なんかいらない!』って映画はすごい内容だったな。豊田商事の会長を刺殺する事件の犯人をビートたけしがやったりしてさ。あんな映画はもう二度と撮れないだろうね。

大槻:サッカー選手じゃないほうの三浦和義さんが本人役で出演してましたよね。

PANTA:そうそう。映画のタイトルになって主題歌にも使われて、いろんな人から「ちゃんとギャラはもらったの?」って訊かれたんだけど、そんなのもらえるわけないよね。そもそも許諾の連絡すら来なかったんだからさ(笑)。

大槻:エンドロールで「コミック雑誌なんかいらない」がガンガンに流れてましたよ? そもそもタイトルで使われてるのに!

PANTA:それから数年経ってからあるイベントで裕也さんと会って、「PANTA、ちょっとこっちへ来て」って手招きされたんだよ。何かと思えば、(内田裕也の口調を真似て)「オレが買ってきたんだから着てくれよ」って紙袋を渡されてさ。袋を開けたら革ジャンが入ってた。「何の御礼もしてなかったからよ」ってね。革ジャンをプレゼントされること自体はありがたいんだけど、裕也さんと会う時は必ずそれを着て行かなきゃいけないのが面倒くさいんだよ(笑)。彼は「ロック・ミュージシャンたる者、革ジャンを着ていなきゃいけない」という信念があるんだけど、自分じゃ着ないんだよな。いつもアディダスのジャージばかり着ててさ(笑)。

大槻:「コミック雑誌なんかいらない」はこのあいだもトモ君(トモフスキー)とROLLYさんとセッションで唄ったんですけど、頭脳警察のオリジナルと裕也さんのカバーは頭の節回しが違うんですよね。頭脳警察は「オゥレには〜」って食って入るんだけど、裕也さんのは「オレには〜」って淡々としてるんですよ。

PANTA:小節数が違うからね。裕也さんのはノーマルなロックンロールになってるし。

大槻:そうなんですよね。「コミック雑誌なんかいらない」に限らず、頭脳警察の曲は単純に聴こえるようで実は複雑な作りだったりする。カバーしてみるとそれがよくわかるんですよ。「悪たれ小僧」もけっこう複雑な作りですからね。

PANTA:裕也さんの「コミック雑誌なんかいらない」と俺たちのオリジナルの一番の違いは歌詞なんだよ。「俺のまわりは映画のスクリーン」という歌詞が、裕也さんのバージョンでは「俺のまわりはテレビのスクリーン」になってるんだ。ちょっと裕也さん、テレビはスクリーンじゃないんだよ! って言いたいけどね(笑)。

大槻:ああ、それは気づきませんでした。頭脳警察の曲ってけっこうカバーされてるんですか?

PANTA:そんなことないよ。だって発売禁止ばっかりだもん。

大槻:そうですよね(笑)。

PANTAがオーケンに代わってひび割れメイクを!?

PANTA:そうそう、このあいだ俺はオーケンに自慢したことがあってさ。頭脳警察の画数は筋肉少女帯の画数より勝ってるんだぞ! ってね。オーケンには「全然悔しくないです」って言われたけど(笑)。

大槻:画数では打首獄門同好会といい勝負ですね(笑)。だけどやっぱり、頭脳警察というバンド名はものすごいインパクトがありますよ。

PANTA:俺のまわりはバンド名に漢字を使ってるのが多いね。筋肉少女帯、騒音寺、横道坊主……。

大槻:いま突然、横道坊主の名前が出てきてびっくりしたんですけど。僕は横道坊主まわりだったのか!? と思って(笑)。横道坊主はむかし一度対バンしたことがありますね。

PANTA:俺は横道坊主のアルバムをプロデュースしたことがあるよ(1997年10月発表の『BReATHe』)。

大槻:頭脳警察が誰かのバッキングをやってたことってあるんですか?

TOSHI:頭脳警察としてちゃんとやったのは、梶芽衣子さんくらいじゃないかな。初台ドアーズでね。

PANTA::TOSHIは個人でいろんな人たちのバックをやってるけど、俺はあまりないな。むかし間寛平と一緒にテレ朝の音楽番組に出たことはあったけどね。「大阪で生まれた男」という曲を提供したことがあって、一人で唄うのは不安だから一緒に出てくれと吉本興業に頼まれたんだよ。その映像がYouTubeに上がってるけど、これが明らかにミスマッチでさ(笑)。

大槻:間寛平さんの息子さんがロック好きなんですよね。たしかSAのNAOKIさんと仲が良かったんじゃないかな。

PANTA:そうだ、思い出した。俺はむかし『けん玉』っていうVシネマ(1992年7月発表)でソープランドのマネージャー役をやったことがあって、ソープランドへ来る客が爺さんの格好をした間寛平だったんだよ。ソープ嬢が飯島直子でさ。階段を上がっていく2人を見送りながら俺が「お時間まで」って言うシーンがあるんだけど、「お時間」を「5時間」と勘違いしちゃったの。

大槻:5時間はさすがに長いですよ!(笑)

PANTA:リハで俺が間違えて「5時間まで」と言ったら、寛平が「5時間だと〜!?」ってこっちを向いてさ。「いや、6時間でも結構です」って咄嗟に答えたんだけど(笑)。オーケンもいろいろ出てるよね、『仮面ライダー』とかさ。

大槻:はい。『仮面ライダー平成ジェネレーションズ FINAL ビルド&エグゼイド with レジェンドライダー』という映画(2017年12月公開)で最上魁星〈もがみ かいせい〉という悪役をやりました。

PANTA:演じてみて、反応はどうだった?

大槻:今年の夏に『ROCK IN JAPAN』というフェスに出たんですよ。そのアーティスト・エリアで、お母さんに連れられた小さい男の子から「最上さん」って声をかけられたんです。「最上さん、仮面ライダーにやられて最上さんはいい人になったの?」って訊かれて、「そうだよ。仮面ライダーにやっつけられて反省して、いい人になったんだ。だからもう怖くないよ」って答えたんです。それからその子と握手して一緒に写真を撮って、夏のいい思い出を作ってあげることができました。

PANTA:こうして喋っていると、いろんなことを思い出すなぁ。月蝕歌劇団がオーケン原作の『ステーシー』を舞台化した時(2004年10月、ザムザ阿佐ヶ谷)、舞台挨拶をする予定だったオーケンの代役をなぜか俺がやったんだよね。

大槻:ああ、ありましたね。すごい台風で僕が到着するのが遅れちゃって。

PANTA:しょうがないから俺が自分でひび割れのメイクをして、「こんばんは、大槻ケンヂです」って挨拶したんだよね(笑)。

大槻:そうそう。ようやくザムザ阿佐ヶ谷にたどり着いたら、ステージでひび割れメイクをしたPANTAさんが唄ってらっしゃったんです。どういうことなのか意味がわかりませんでしたよ(笑)。

PANTA:オーケンと喋っているとホントに話が尽きないけど、またちゃんとした形で一緒にライブをやってコラボしたいね。

大槻:そうですね。頭脳警察は好きな曲がいっぱいあるんです。「少年は南へ」とかよく聴いてたので一緒にやってみたいですし、「時代はサーカスの象にのって」も大好きで、いつか唄ってみたいんですよね。「どこからでも やり直しは出来るだろう」という最初の一行を聴くと、僕はいつも本当にホッとするんです。辛いことがあっても前向きになれるし、あの一行は僕にとって生きる支えになってますね。

PANTA:オーケンがその一行を唄うのを聴いて安心する人もいるだろうね。いつか「時代はサーカスの象にのって」のコラボを実現させよう。約束だよ。

*本稿は2018年9月29日(土)にLOFT9 Shibuyaで開催された『ZK Monthly Talk Session「暴走対談LOFT編」VOL.1 〜「BRAIN POLICE RELAY POINT 2018」リリース・パーティー〜』のトーク・パートを採録したものです。

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