検証 長崎市政 田上市長の3期 <まちづくり> 評価の一方 拙速さも

 田上市政はMICE(コンベンション)施設や新市庁舎の整備など“ハコモノ”事業で注目されがちだが、時代に即したまちや行政の仕組みづくりにも注力している。その一つが「地域コミュニティ連絡協議会」だ。

 10月14日、長崎市晴海台地区であった連絡協の設立準備委員会の初会合。住民約70人は「車がないと高齢者は住みづらい」「若者との交流の機会がない」などと地区の課題を洗い出した。「地域ぐるみの体制をつくっておかないと、この先どんどん人が離れる」。委員長を務める小柳幸一郎(71)は連絡協に望みを託す。

 平成の大合併で市域が1・7倍に拡大する一方、人口減少と高齢化は進む。市は地域活性化のため、自治体や社会福祉協議会などの各団体でつくる連絡協を、連合自治会区域か小学校区ごとに77程度設置する方針。各連絡協が策定した「まちづくり計画」に基づき、一律50万円と各地域の人口1人当たり400円を合計した金額を上限に毎年度交付、事業に充ててもらう仕組みだ。

 事業着手は2011年度。本年度は茂木や式見など6地区でモデル事業を展開する「最終段階」を迎えているが、まだ4割弱の地区が設置の検討に至っていない。その一つが琴海地区。連合自治会で一つの連絡協を設置するか、地区の四つの小学校区ごとにつくるか-。地区には両方の意見があり、方向性がまだ決まっていないという。

 これまで連合自治会が主体となり琴海全体で行事を続けてきただけに、連合自治会長の濱田壽一(71)は「これを機に地域が分断しなければいいが」と心配する。

 市は交付制度の恒久化を図るため、9月の定例市議会に条例案を提出。だが、モデル事業の検証も不十分として継続審査に決まり、目標だった11月の条例施行は遅れた。市の拙速さが露呈した格好だ。議員の間には制度の必要性を認める声が一定あるが「金のばらまき」とみる向きもある。

 市長の田上富久が仕掛ける地域主体のまちづくりに呼応する行政の仕組みが「行政サテライト機能再編成」だ。本庁機能の一部を4カ所の総合事務所に分散。その出先機関となる20カ所の地域センターの役割も充実させ、地域に根付いた行政サービスの提供を目指す。

 田上は昨年10月の再編に伴い市民の利便性が向上したと強調する一方、まちづくりに深く関わる職員の能力の育成を今後の課題に挙げる。今回の新たな仕掛けが地域の活力につながるか。評価はこれからだ。(文中敬称略)

晴海台地区の「地域コミュニティ連絡協議会」の設立に向け課題を話し合う参加者=10月14日、同地区ふれあいセンター

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