河北春秋(11/11):ヘミングウェーにとって、五大湖地域の米ミ…

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 ヘミングウェーにとって、五大湖地域の米ミシガン州は心の古里と称すべき土地だった。ナチュラリストの父に伴われて狩猟と釣りに親しみ、大自然のたたずまいを五感で把握した。幼少年期の記憶が、後年の作品にくっきりした像を結んでいる▼彼は第1次世界大戦に従軍し、死の影に取りつかれて帰国する。友人らとマス釣りに訪れた北ミシガンの川が心を慰めてくれた。短編『二つの心の大きい川』(福田実訳)は、そんな体験を下敷きにしている▼わが東北地方も、マス類を追う釣り人にはあこがれの土地。ヤマメ、イワナの渓流釣りは9月末で禁漁となったが、11月いっぱいニジマス釣りを楽しめる自然河川がある。荒雄川(大崎市)は今年、10月以降の遊漁区間が2倍以上の約6キロに拡大された▼管理する鳴子漁協の中島孝理事(57)は「混雑緩和のためです。関東などからもファンが来ますから」と明かす。「海に行きたいが、津波の記憶がまだ生々しくて」と、川を訪れる釣り人が意外に多いとも聞く▼『二つの心の大きい川』の主人公ニック・アダムズ青年はヘミングウェーの分身。つきまとう不安を完全には振り払えないものの、原野の川で生への決意を確認する。あの震災から7年8カ月。われわれの心の再生はどこまで進んだろう。(2018.11.11)