【社説】過労死白書 働き手の命守る改革を

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 政府は、過労死・過労自殺の現状分析や対策などを盛り込んだ2018年版の「過労死等防止対策白書」をまとめた。

 昨年度、脳や心臓の疾患、精神障害で労災認定された759件のうち、190件が過労死と未遂も含めた自殺だった。白書を初めてまとめた16年以降、過労によって亡くなる労働者数は横ばいが続いている。

 見逃せないのは、過労自殺の原因にもなり得る精神障害による労災認定件数が過去最高になっていることだ。脳・心臓疾患による認定件数の倍に上っており、深刻である。働く人の身体だけでなく、心の健康を守る取り組みが求められよう。

 厚生労働省が毎年実施している最新の実態調査では、仕事に関することで「強い不安、悩み、ストレスを感じている」と答えた労働者が6割に上っている。要因は「仕事の質・量」が最も多く、仕事での失敗や責任、いじめ・嫌がらせといった対人関係と答えた人も多い。長時間労働を是正するのはもちろんのことだが、仕事の内容や職場の人間関係などにも目を向けるべきではないか。

 今回の白書では、過重労働が顕著な重点業種として五つを挙げ、そのうち「教職員」「医療」「IT」で大規模な実態調査の結果を分析した。

 かねて「働き過ぎ」が指摘される教員では、8割もの人が「業務に関するストレスや悩みを抱えている」と答えている。

 ストレスや悩みの内容は「長時間勤務の多さ」のほか、「職場の人間関係」「保護者・PTAへの対応」が多かった。学習指導要領改定に伴う授業時間の増加や、教員不足といった問題も無関係ではなかろう。

 また医療の現場では、医師の長時間労働が再確認されると同時に、精神障害で労災認定された看護師が多いことが明らかになった。その約半数は30代以下という。発症の要因としては、患者による暴言・暴力や患者の自殺などに遭遇したことが8割近くを占める。

 IT業界でも、30〜40代の比較的若い世代で労災認定が目立った。緊急トラブルや顧客への対応で長時間労働が強いられている実情が浮き彫りになった。

 業種ごとに特徴に応じた対策を講じ、過労死などの根絶につなげる必要がある―。白書がそう指摘するのはもっともだろう。どの業種も画一的に労働時間だけ規制しても、こなすべき仕事の量や質などが変わらなければ、解決できない問題が多いからだ。

 しかし現実はどうだろうか。この夏成立した働き方改革関連法は、一部専門職を労働時間規制の対象から外す高度プロフェッショナル制度を盛り込む。残業時間も規制されるが、上限は過労死が労災認定される目安だ。「働かせ放題」との批判も根強い裁量労働制の適用拡大も経済界の要請で復活させようとしている。

 白書は、職場でのストレスチェックの実施や、分析結果を環境改善に生かすことを求めている。だが子どもや患者、顧客と向き合う業種では、内部の努力や工夫だけでは限界があろう。

 根本的な原因を取り除く大胆な意識改革も必要ではないか。政府こそ白書が示す実情を受け止め、具体的で実効性ある対策を急がねばならない。