「仕事を楽しめるのは一部の天才に与えられた権利だと思っていた」南キャン山里がサイボウズ青野社長と対談

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サイボウズが主催するイベント「サイボウズデイズ2018」が11月7日と8日、幕張メッセ(千葉県千葉市)で開催された。8日には、お笑い芸人の山里亮太さんと同社の青野慶久代表取締役社長が対談を行い、働き方改革への疑問や嫉妬の活かし方、人の動かし方について語り合った。

青野社長「働き方の多様化を訴えていきたい」

山里亮太さん

山里:サイボウズの「楽しいは正義」って素晴らしいと思うんですが、これ掲げるの、怖くないですか。いろんな選択肢があるのは勝ち組だけで、「しかめっ面で働く俺らがいないと『楽しいは正義』って言えない」みたいな噛みつかれ方はしないですか。

青野:ありますね。「サイボウズが選択肢を増やせるのは儲かっているからだよね」と言われるんですけど、うちは儲かっていない時からこれを掲げてたんですよ。ただ、メンバーには「赤字になったら給料減らすからね」と言っていました。

山里:それなら離れようという社員はいませんでしたか?

青野:他の環境より楽しかったから残ってくれたんでしょうね。

昔はどんどん人が辞める会社でした。私は「ガツガツ働いて楽しいのになんで辞めるんだ」と思っていたんです。ある時、社員に聞いてみたら皆言うことが違って、「時間を区切って働きたい」「副業したい」「長い育児休暇がほしい」という希望が出てきた。そこで、楽しさは1人1人違うんだと、選択肢を増やしていこうと思ったんです。

山里:世の中の「働き方改革」は「短い時間」という1個の選択肢だけを打ち出しているじゃないですか。それだと楽しいには繋がらないですよね?

青野:そうなんです。長く働きたい人にとっては迷惑な話です。芸能界もそうですよね?

山里:僕らの世界の時間はむちゃくちゃです。あるテレビ局は働き方改革で、退社時間が決められている。そうするとADさんの中には「趣味で残って現場を見させてほしい」という人も出てくる。でも短時間で帰れると思っていた人は「あれを許すと定時で帰る俺が悪いみたいになるからやめさせて」と訴える。上司も「問題になるから帰ってくれ」と、頑張り屋さんを帰してしまう。「仕事が楽しい」という夢のスキルを手にした人が潰されている状況があります。

青野:どうして一律でやろうとするんでしょうね。本当は残業してもその人が健康で、生き生きしているならいいと思うんですよ。一律の働き方ではなく、働き方の多様化を訴えていきたいと思っています。

山里:変わる兆しはありますか?

青野:経産省の審議会で、高齢者雇用の話をしています。60歳や65歳だと元気で働けるんだから、働いてもらった方がいい。人手不足だし、稼いでくれたら税金も増えるし、年金の支給開始も遅らせられる。ただ、そうなると高齢者を雇えますかという話になってきます。フルタイムで働いてくれるわけじゃないですからね。

山里:そういう人たちを楽しく組み込めるビジョンがあるんですか。

青野:ありますよ。老いていく人たちも含め一緒に楽しく働けるようになれば、より多くの人を受け入れて働けるようになると思うんです。皆同じ時間に同じ場所で働くんじゃなくて、若い人もお年寄りもそれぞれ楽しく働ける。これが目指すべき働き方改革じゃないかなと思うんです。

山里さん「眠い時は、嫌な人の顔を思い出して、一発自分で自分にビンタする」

青野社長(左)と山里さん(右)

青野:対談にあたって『天才はあきらめた』(山里さんの著書)を読みました。南海キャンディーズを組む前に2組のコンビで失敗したこと、M-1グランプリで最下位を取り、お笑いを辞めようとした話が書かれています。内心の叫びが生々しく書かれているのが印象的でした。

山里:妬み嫉み恨み辛みというのが僕の原動力でして……。嫌なことがあった時、嫌だというだけで終わらせたら僕のメリットにならない。それを燃料に変えるにはどうしたらいいかを考えているんです。例えば、仕事をしないといけないのに眠い時、嫌な人を思い出して一発顔をビンタすると、すっきりして目が覚めるんです。そこから2時間くらい仕事したら、「この2時間を生み出したあいつは偉いな」、「あいつのおかげで俺は睡眠時間を減らせた」ということで、嫌いなやつを成仏させるんです。……こんなこと言うやつが「楽しいは正義」について話していいんでしょうか?

青野:言わないだけで、嫉妬心を抱いている人は多いでしょうね。僕にももちろんあります。同世代のITベンチャーだと楽天、サイバーエージェントがあって、創業時期はあまり変わらないのに規模は全然違う。俺たちは何をしているんだと情けなく思うことはあります。山里さんは、キングコングさんが同期なんですよね。

山里:キングコングはとてつもなくすごかった。養成所に在学中に賞を取って、テレビのレギュラーが決まって。同期は皆「あいつらを倒す」と頑張ったんです。僕もその頃は、「もっと努力してキングコングに追いつかないと」と思っていたんですけど、「他人を怒ること」を努力だと勘違いしていたんです。当時の相方にめちゃくちゃ切れることで、俺はこんなことでもキレるぞ、と。相方が「ら行」が言えなかっただけで3時間もキレてるぞ、お前らにこれができるか?と。相方はだんだん頬がこけ、毛も薄くなり、最後に「もう許してくれませんか」と言って辞めていきました。

青野:ビジネスの場面でも、部下を叱って働いた気になっている上司、いますよね。

山里:人を叱るって成果を生まなくないですか?青野さんって叱ることあるんですか。

青野:私も昔それをやって失敗したので、最近はスタイルを変えているんです。やっぱり改善のためには、理想で動かすというのがいいと思います。「もっといいソフトが作れると楽しいよね」「僕たちのソフトを世界中で使ってくれたら楽しいよね」と。今がダメだと言うんじゃなくて、明るい未来を共有して動かす方が機能します。お尻を叩くのは古いです。

山里:人のやる気って、外から言って出ることはないですよね。「自分がこれを頑張ったら、こう繋がる」と思えることでやる気が出る。

山里さん「楽しくなると、努力を努力と思わなくなる」

青野:山里さんは2004年のM-1グランプリで2位を取って、2005年にもM-1に出場されましたね。

山里:圧倒的最下位でしたね。心を病んで辞めようと思いました。ずっと陰口を言われているような気持ちになっちゃって。家でパッと気づいたらピザの空き箱が2つあるんですよ。食べたことを覚えていないんです。食事中は仕事のことを考えなくていいというルールがあったので、「何かを食べていれば仕事から逃げられる」と無意識に思ったんでしょうね。

青野:でもそうした挫折を乗り越え、今はお一人でも活躍されていますし、16年と17年にまたM-1に出られた。なぜまた出ようと思われたんですか。

山里:実は相方から熱望されまして。あの子はボクシングで五輪を目指して頑張っていたんですけど、引退後に「もう1回M-1に出てもらえない?」と言われたんです。負けましたが、漫才が楽しいともう一度思えたのでやってよかったと思います。コンビの漫才が楽しみになるって夢だったんですよ。でも仕事って辛いものだろうし、努力してお金をもらうものだから、楽しいというのはごく一部の天才に与えられた権利だと思っていた。天才じゃない自分は、センターマイク前で楽しいと思う時が来ないと思っていた。でもすごく楽しくて幸せだなと。そこから努力を努力だと思わなくなったんです。

楽しくなるとご褒美を先に想像するようになりませんか。これだけ努力しなきゃというより「これをやったらこれがもらえる」という気持ちになって、楽しくなると思います。

青野:まさに、理想で引っ張るということですね。