首相の改憲発言 前のめりの姿勢は危うい

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立憲主義や三権分立の原則を踏まえれば、行政府の長(首相)による立法府(国会)での憲法改正を巡る発言は、抑制するのが筋ではなかろうか。

臨時国会で安倍晋三首相が、持論の改憲論に踏み込んだ発言を繰り返している。

憲法改正に最も熱心な「旗振り役」が、主権者の国民ではなく、立法府でもなく内閣総理大臣-という現状は、果たして正常な姿なのか。以前にもまして改憲に前のめりな首相の政治姿勢を危ぶまざるを得ない。

「首相が憲法審査会の在り方に言及したことは、三権分立の観点から問題だ」。立憲民主党の吉川沙織氏は参院代表質問でこう問いただした。

首相は所信表明演説で「国の理想を語るものは憲法」と述べるとともに「憲法審査会で政党が具体的な改正案を示すことで、国民の理解を深める努力をしていく」「国会議員の責任を共に果たそう」と改憲論議の加速を国会に呼び掛けていた。

吉川氏の指摘に対し、首相は憲法63条を引用して「国会議員の中から指名された首相の私が、政治上の見解などについて説明し、国会に議論を呼び掛けることは禁じられておらず、三権分立の趣旨にも反しない」と答弁した。憲法63条は、首相や閣僚が「何時(いつ)でも議案について発言するため議院に出席することができる」と定めている。

共産党の志位和夫委員長は衆院代表質問で「行政府の長が立法府に号令を掛けるのは重大な介入、干渉だ」と批判した。

これに対し首相は、国会議員をはじめ公務員に憲法尊重擁護義務を定めた憲法99条に関して「憲法改正について検討し、主張することを禁止する趣旨ではない」と反論した。

確かに、一国会議員として憲法改正に関する持論を表明することは認められるべきだろう。

しかし、公の立場ということを冷静に考えてほしい。いわゆる三権の長の一人で、行政府を率いる一国の首相だ。憲法改正を発議する権限は立法府の国会にある。もちろん、最終的に憲法改正の是非を国民投票で判断するのは私たち国民だ。

三権の長の経験者である伊吹文明元衆院議長は、所属派閥の会合で「首相が国会にああいうことを言うことはいいのかなという感じはした」と疑問を呈し「焦燥感が首相の腹の中にあると思う」とも指摘した。

自民党憲法改正推進本部の下村博文本部長は、改憲を巡る首相発言に野党が反発していることを念頭に「『安倍色』を払拭(ふっしょく)していくことが必要だ」と述べた。身内の自民党内ですら危ぶむ声があることを、首相は重く受け止めるべきである。

=2018/11/11付 西日本新聞朝刊=