[おすすめ書籍]ビレッジプライド〜0円起業の町をつくった公務員の物語〜寺本英仁著

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NHK「プロフェッショナル仕事の流儀」 に登場し、一躍脚光を浴びられたのが2016年だというから、もう2年前。そこから加速して島根県邑南町(おおなんちょう)の変革をリードしてきた、スーパー公務員寺本英仁さんが、満を持してその経緯を克明に綴った書籍を出されました。人口1万人の町に、食を中心に次々と起業する人が排出され、年間90万人もの集客をしている驚くべき邑南町。自分も二度ほど訪問し、山間の町(というか村という雰囲気)に、予約の取れないレストランや、人が耐えない地産品を販売するお店が数多く点在するそのギャップに、本当に不思議な、しかし非常に深い感動を感じざるを得ませんでした。実は二度目の訪問は、弊社の会社の合宿として、東京・沖縄・広島、長野で仕事をしている10数名の社員を集めて伺ったくらいです。そうした中で、寺本さんには何度もお会いし、直接お話も伺い、講演やセミナーなども拝聴してきた自分としては、当然の如く初日にこの本を入手し、早速読みました。3時間くらいであっという間に読めたのですが、読み進める中で、邑南町のことはもう大体知っていると思い込んでいた自分にとっても、大変驚いたことがいくつかありました。

邑南町の景色

一つは、 その始まりが、EC(オンラインショップ) だったということです。もちろん「ECをやったんだけど…」というお話は伺っていたんですが、正直これほど力を入れて、しかも自らが手を動かされているとは存じ上げませんでした。インターネットの分野で長く働いてきた自分にとっては、これは一つ大きな衝撃でした。というのも、どこかで「ECやったとってもおそらくそれほどではないだろう。もし自分に相談してもらえれば、もう少しうまく行く可能性も…」くらいの奢った気持ちが無くはなかったからです。寺本さんも、少し気を使われたのか(笑)、あまり自分にはそういう話はされませんでした。でも、この本にはその長期間にわたる取組についての経緯や内容が、克明に綴られています。そして、それは本質的で、且つできることは全てトライされていました。しかももちろん、はじめから専門家ではないのに、一人で始めて…。全てに苦労されながら、できる人材を探しながら、ここまでされていたとは。デジタルマーケティング業界の多くの人たちは「地域はデジタルが遅れている」と思い込んでいます。でも、やる人はやっているのです。(当然ですが)。ある意味、そうした自分の奢りにも気付かされました。

著書にも登場する、邑南町立食の学校

もう一つは、この15年間、様々な活動に取り組まれてきた 「姿勢」そのもの です。寺本さんは、お会いするといつもニコニコしていて、穏やかな印象。でもどことなく、「曲者」感の漂う(笑)印象でした。しかし、この本に出てくる主人公は、むしろその真逆とも思えるような、猪突猛進のアグレッシブさ。思ったらすぐ行動し、しかも簡単に諦めない。ある意味「商社マン」かのようなその積極性や馬力の強さは、見た目のイメージとは異なります。でも、おそらくは、この15年取り組まれてきて、それに関わってきた人達も、実はそんなに「ガツガツ」さや「押しの強さ」、ある意味の「鬱陶しさ」は、それほど感じられなかったのではないかと勝手に想像しました。それは、むしろ淡々と、周囲から見るとある意味冷静に、粛々とされてきたのではないかと。そうでなければこれだけのたくさんの人達、特にその道を極められて、かなり著名な人達がこれでもかというくらい巻き込まれていかないのではないかと思います。もちろん、所々でぶつかったり、軋轢もあったでしょうが…。ご自身の気持ちはもちろん、熱いものを常に維持していたことは、本を読むと十分わかります。でも、多分、その姿勢や気持ちは、むしろ誰に対しても押し付けがましくもなく、ましてや権威や立場を傘にすることもなく、淡々とやるべきと思ったことを、行動に移されてきたのではと。これはあくまで自分の想像ですが。

実は、これは大きなことを成し遂げる人、共通の特性ではないかと最近思っていることです。その理由は、大きなことをなす人の多くは、「何者かにならねばならない」「いつまでに、何をどのくらい成し遂げなければならない」というような、 縛りから完全に解き放たれた、「自由さ」 を持ち合わせているからです。著書の中にもありましたが、「公務員だからこうしなければならない」という発想も微塵もありません。要するに「自由」で、100%主体性で生きている人だからです。これは、ある意味、生まれ持った素質なのかもしれません。しかし、 その姿勢は、本当は誰しもが持ちうるはず なのに、なかなかそうはできない、非常に深いところにある真実のようなものだと、自分は思いました。

「公務員」だから、成果を上げても給料があがらないから、こういう成果をあげたことがすごいのか。起業家になってベンチャー企業でやるからすごいのか。はたまた、独立する人は勇気があってすごいのか。この本を読むと、そうした「人が身を置く環境」には、ほとんど意味がないことを思い知らされます。大事なのは、心の持ち方そのものなんだと。どんな場所にいても、心の持ち方次第で、自由を獲得でき、どんな可能性も描くことができるんだなと、そうつくづく思い知らされるのです。

そういう意味では、この本には「地方創生」だけではなく、「働き方改革」「人生100年時代」「君はどう生きるか」「起業の本質」「人はなぜ働くのか」など、現代を生きる上で必ず突き当たる、様々なテーマのエッセンスが凝縮しています。文章は、まるで寺本さんが語り部になって眼の前で話してくれているかのように読みやすく、3〜4時間で一気読みできます。 地方創生に関わる人のみならず、本当に全ての方にオススメしたい著書 です。

最後にもう一つ。この本を原作にして、どこかのテレビ局が、ドラマ化してくれないかな・・・(笑)。本当に心からそう思いました。もちろんNHKでもいいし、民放でも。10話くらいには十分なると思います。あの美しい邑南町が舞台なら、間もなく始まる4K8K放送でもきっと話題になるはず。ドラマを見た人が、その内容に刺激を受けて、「地方創生業界」に飛び込んで、日本の各地で活躍するようになったら、本当に素晴らしいと思うのですが、TV局関係の皆様、いかがでしょうか?

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文:ネイティブ倉重 (※書評と言うか、完全に「読書感想文」になってしまいました。)

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