外道「伝説のファースト・アルバムを再現したライブ・アルバム&新曲とセルフカバーを織り交ぜたスタジオレコーディング・アルバムをセットにしたデビュー45周年記念作品の変わらぬ凄みと迫力」【後編】

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ブルースを弾けばギタリストの技量が一発でわかる

──「いつもの所で」(のちの「いつもの所でブルースを」)のようなブルース・フィーリングに溢れた曲も外道の持ち味のひとつですが、ルーツ・ミュージックが見えづらい外道の音楽性の中でもブルースだけは外せない要素だったということですか。

加納:僕がギターを弾き始めた頃、ほとんどの人はベンチャーズのコピーをやってたんですよ。でも僕はそうはならなかった。ベンチャーズは海へ行くとかかってる音楽で、演奏するものじゃないと思ってたので(笑)。それよりも夜中にブルースのレコードを聴きながら、それに合わせてギターを弾いてました。だから形としてはブルースから入っていったんですね。僕が中学生だった頃、B.B.キング、アルバート・キング、フレディ・キングというブルースの3大キングが夜中のテレビ番組に出てたんですよ。それを見て、こういうのだったら自分でやるのもいいなと思って。当時、いろんな人とジャムする時はブルースの3コードが基本だったし、その人がどのくらいギターを弾けるのかはブルースをやればすぐにわかったんですね。ブルースひとつでその人がどれだけ弾けて、唄えて、間もタイミングも全部がわかるものなんです。

──新曲とセルフカバーを織り交ぜたスタジオ録音盤のほうですが、既発曲はどんな基準で選ばれたのでしょう?

加納:たとえば「ハイビスカス・レディー」は、43年前にシングルとして出したきりでまともにレコーディングしたことがなかったし、今ではなかなか手に入らないから改めて形にして残しておきたかったんです。ファースト・アルバムをそのまま再現してみたのも同じ理由で、今や入手困難だから。日本じゃ手に入らないから外国で買ったという人もいるみたいで、それならファースト・アルバムをもう一度やってみようと思ったのが理由のひとつなんです。「ハイビスカス・レディー」は曲もいいし、今やってみるのも面白いかなと思ってやってみたら、たしかにすごく良かった。最初は違う曲をトップに持ってくる予定だったんですが、「ハイビスカス・レディー」を最初に聴かせるのが面白いんじゃないかってことになったんです。自分では何がいいのかなかなかわからないもので、「アロハ・ババア」もメンバーに「あの曲、好きなんだけどな」って言われてやってみたんですよ。自分としては「あんなふざけた曲でいいの?」って感じなんだけど(笑)、やってみるとたしかに良かったりする。「乞食のパーティ」も「何?」もそんな感じですね。今までまともにレコーディングしたことがなかったので、この機会に録っておこうと思って。お客さんにも喜んでもらえるだろうし。

──ギターの音色はもちろんなんですが、新録盤のテイクはどれも加納さんの歌がすごくいいんですよね。伸びやかで艶があって、ボーカリストとしてもとても冴えていると思うんです。

加納:ここ数年、自分がボーカリストであることをすごく意識してるんです。今まではいい歌のテイクがあってもわざと使わないようにしてたんですよ。ミック・ジャガーがスティーヴィー・ワンダーみたく上手く唄うのも何か違うじゃないですか。ジミヘンがプレスリーみたいに唄っても拍子抜けしちゃうだろうし。僕にもそういうのがずっとあって、ギターも歌もいいテイクをあえて使わなかったんだけど、もう50年も経ったんだからそういうのもいいんじゃないかと思って。それで今回、生まれて初めてちゃんと唄おうと意識したんですよ。

──芸歴50年にして初めて(笑)。ということは、ギターも良く録れているテイクを残したんですか。

加納:と言うか、どの曲も1回しか弾いてないので(笑)。せいぜい2回しか弾いてないし、3回も弾くと選ぶのが大変になっちゃうし、後から後悔したくないので1回しか弾かないんです。1日のうちにどれだけ曲ができるか集中してやるのでどんどん作業をこなさなきゃいけないし、曲を冷静に聴き返す暇がないんですよ。だから弾くのは基本的に1回。そんなペースだったので、今回も2日で録り終えたんです。だからレコーディングもライブみたいなものなんですよ。キーボードでゲスト参加してくれた石黒(彰)さんがびっくりしてましたからね。「このリフを弾きながら唄うんですか!? 普通は唄えないでしょ?」って。普通の人には無理だろうけど、僕の場合はできちゃうんですね。

生きた証を残していく責任がある

──1曲目の「ハイビスカス・レディー」は軽快なラブソング、2曲目の「抱きしめて」は激しく情熱的なバラッド、3曲目の「湖の辺で」はアコギが良いアクセントになっているミッドテンポのバラッドで、頭の3曲がどれもラブソングというのが少々意外だったのですが。

加納:それは1枚目のライブ盤との対比もありますね。ライブ盤がなければそういう曲の並びにはならなかったと思います。ライブ盤を聴き終わった後は、激しさと対を成すような曲が最初にあるといいなと思って。

──ハードなテイストの「青春に生きる」は今の加納さんの心情と信条をストレートにぶつけた曲ですね。いくつになっても青春のまま滾る思いで突っ走っていくという。

加納:みんなそうだと思うんだけど、人はそんなに変われるものじゃないんですよ。身体が言うことを利かなくなるとか、思ったように足が出ないとかあるけど、人間ってそう簡単に変われませんよ。いろいろ成長して家庭を持ったりしても、特に男は子どもの頃からそんなに変われるもんじゃないです。大人ぶってるだけで、子どもの頃と考えてることはさして変わらない。女の人は強く逞しく大人になっていきますけどね。

──「青春に生きる」の中で「今まさに生きた証を残していく」という歌詞がありますが、まさにこういう作品を残す行為そのものを指しているわけですよね。

加納:そういうことなんです。と言うのも、自分のプロフィールを見た時にびっくりしたんですよ。外道のファースト・アルバムの再現ライブをやった時のフライヤーの裏面に「加納秀人 音楽活動50年のあゆみ」というのがダーッと載っていたんですが、自分でも忘れていることがいっぱいあるわけですよ。でもそういう誰でもできるわけじゃないことを僕はずっとやってきて、その歴史はこの先も残っていくんだなと思ったんです。人間は気づかぬうちに自分の足跡を残していくものなんですね。

──外道のファースト・アルバムを残るものとして全く考えていなかった加納さんが「生きた証を残していく」と唄うのは大きな変化なのでは?

加納:なぜそう思うようになったのかと言えば、責任を感じるようになったからなんです。自分が音楽を始めて全国をまわって、僕に影響を受けてミュージシャンになった人がものすごく多いんですよ。

──今や外道のメンバーになったそうる透さん、『One, Two』をプロデュースした角松敏生さん、ROLLYさん、B'zの松本孝弘さん…挙げるとキリがないですね。

加納:自分が知らないうちに誰かにものすごく影響を与えて、それでミュージシャンになった人もいるし、45年間ずっとファンの人もいるし、頭脳警察のギターみたいに僕が人生を変えてしまった人がいっぱいいるんですよ。だから僕はいろんな人に対して責任があるし、自分は死ぬ直前まで音楽をやり続けていかなきゃいけないんです。生きた証を残すためにもね。

──外道の人気曲「水金地火木土天回明」はやはり外せないということで選ばれたんですか。

加納:レコード会社の人に聴きたいと言われたんです。原曲をそのままやるのもアレなんであんなアレンジにしたんですけど、結果的にすごく良くなったんですよ。何と言うか、昔の曲も進化して一緒に生きてるんですよね。昔の曲は昔の曲でもう終わったものとして考える人もいるけど、僕の場合は曲も自分と同時に生きて変化し続けている。

──それは加納さんの爆発的なエネルギーに曲が引っ張られているんじゃないですか?(笑)

加納:昔の曲に対しても責任があると思ってるんです。ギターもそうだけど、いくらたくさん持っていても弾かないギターはかわいそうじゃないですか。ギターは弾いてナンボですから。車だって何年も乗ってないとダメになっちゃうでしょ? それと同じで、曲も弾いて唄ってあげないといけないし、自分のキャリアに貢献してくれてるわけだから、いつまでも大事にしないといけない。僕と同じように曲も生きている以上、一緒に成長していく責任があるんですよ。

音楽とは太陽の光や空気と同次元にあるもの

──「夕日が昇る」はかつて秘蔵音源集『狂熱の町田ポリス'74』に「夕日昇る」として収録されていましたね。

加納:あの曲はまともにレコーディングしたことがなかったので、今回やってみようと思ったんです。

──「夕日が昇る」はユニークな歌詞ですよね。「夕日が昇り 朝日が沈む」「天に向かって雨が降る」「ネギが太った腹でカモを背負い」といった具合に、すべて真逆のことが唄われていて。

加納:そう、全部が反対なんですよ。「黒い虹が七色の空に 突っ立って土下座する」とかね。この世のあらゆる物事には相反するものがあるじゃないですか。静と動、光と影、プラスとマイナス、白と黒、右と左、男と女…といったように。この世も宇宙もそういったバランスがすごく大事で、すべてのものは片一方だけでは成り立たないわけです。それに、良いと思ってやったことが悪い結果になったり、失敗と思われていたことが成功に転じることもある。正しいと信じてやっていることが本当に正しいのかどうか。悪いとされていることが本当は正しいのかもしれない。だから僕はあえて“外道”と名乗って、本道から外れて我が道を行くことにしたんです。こう見えて実は最初からちゃんと考えてやってたんですよ(笑)。

──外道を名乗りながら日本のロックの王道としてその礎を築いたわけですからね。

加納:僕の書いた歌から哲学的な側面を嗅ぎ取った作家や映画監督は多いんですよ。田原総一朗さんも外道の本質を嗅ぎ取って僕らのドキュメンタリー番組を作りましたからね。「こいつらは違う!」ってことでね。当時からバンドの見せ方には意識的だったんですよ。僕が白い衣装を着ればベースには黒の衣装を着させたり、僕がステージでビュンビュン動きまわればベースは一切動かず、静と動を表現していたんです。昔の外道はそうでした。

──「夕日が昇る」は「ウィンドワードヒル」というインストゥルメンタルと組曲のように連なっていますね。

加納:「ウィンドワードヒル」は僕がソロで出した曲なんですよ(『In The Heat』収録)。「夕日が昇る」とは全くタイプの違う曲だけど、一見合わないようなものでも実は合うものなんだよっていうことのひとつの例なんです。外道の曲からどうしてこういうフュージョンみたいな曲になっちゃうの!? って思われるかもしれないけど、そこはあえて狙ったんです。

──新曲の「1000年ソウルのロックンロール」では加納さんなりの現代社会への違和感を疾走感溢れるビートとメロディに乗せて唄っていますね。

加納:政治に対しても今の世の中に対しても言いたいことは山ほどありますよ。クーデターでも起こして世の中をクリーンにできればいいけど、そういうのは現実的じゃないし、実際に世の中を動かしていくのはもう僕らの世代じゃないし、せめてこういう歌で世の中に対しておかしいと思っていることを唄っていきたいんです。

──ポイントは「ロックンロールが救いさ」という歌詞ですよね。

加納:それが希望ですね。ロックンロールという音楽にはものすごいパワーがあるんですよ。空に太陽の光があるように、空気があるように、それと同次元だと僕は思ってます。ロックンロールに限らず音楽は人の生きるエネルギーになるし、希望にもなるし、癒しにもなる。音楽という神様からの贈りものがこの世にあることが僕にとっては救いなんです。

あんまり枯れると散っちゃうよ?

──“1000年”という年月にはどんな意味があるのですか。

加納:できれば1000年くらい生きてみたいんですよ。それくらい生きられたら面白いだろうし、「あれもやってみたかった」みたいなことを全部やれそうじゃないですか。僕はひとつの生き方で60年以上生きてきちゃったけど、1000年あれば他のいろんな生き方も試せそうな気がするんです。

──今回の新曲はどれも鮮度の高いものばかりで、デビューから45年も経つのに枯れた感じや落ち着いた雰囲気が微塵もないのがいいですよね。

加納:10代のガキが作ったような曲ばかりだけど(笑)、上からそういう曲が降りてくるのはありがたいですよ。この間の『なにわブルースフェスティバル』でもどんどん枯れていく人がいっぱいいたけど、あんまり枯れると散っちゃうよ? って言いたいですよ(笑)。

──逆に、加納さんはなぜここまで枯れないのでしょう?

加納:まだまだやりたいことがいっぱいあって、全然やりきれてないんですよ。身体がついてこないことがあるから、身体を丈夫にするために走ったり、山に登ったり、健康食品を摂取したりしてるし、精神的にいいエネルギーをもらうために世界遺産を巡ってみたりしてるんです。それでもまだ足りないし、まだまだやりたいことがいっぱいあるんですよ。

──20代前半に出したライブ・アルバムをそのまま再現してもまるで違和感がないのがそもそも異常ですよね(笑)。

加納:どうかしてますよね(笑)。45年前の曲と新曲を一緒にやっても全然平気だなんてあり得ないと思いますよ。でもそういうあり得ないことをやるのが僕は平気なんです。だから今でも「香り」や「ビュンビュン」を普通にやれるんですよ。神様がまだまだやれって言うならやるしかないし、自分ではもうそこから逃げられませんからね。

──この先、気持ちを新たに取り組んでみたいのはどんなことですか。

加納:たとえば30年前に作ったままで、全然世に出さない曲というのもあるし、そういう曲を世に出してあげたいと思うようになりましたね。眠ったままの曲に日の目を見させてあげないと曲がかわいそうだし、その曲を世に出すことで影響を受ける人が出てくるかもしれないし、そんなふうに意識が変わってきたんですよ。演奏することでその曲もまた生きてくるし、僕自身もその曲と共同体になるんです。それにその曲にはその曲なりの世界があるんですよ。「アロハ・ババア」には「アロハ・ババア」なりの世界があるし、「乞食のパーティ」には「乞食のパーティ」なりの世界がある。それが最近わかってきて、いろんな曲を演奏するのが楽しくなってきたんですよね。演奏すれば曲も喜ぶし、また違った一面を見せられたりもするので。

──話を伺っていると、ここへ来てまた加納さんの中で音楽に対するモチベーションが上がっているように感じますね。

加納:確実に上がってますね。音楽をやる時の精神と身体のバランスが良くなってきたのを感じるし、今はギターを弾くのも唄うのもすごく新鮮に向き合えるんです。ちなみに言うと、外道のファースト・アルバムの再現ライブではソロとATOMIC POODLEのライブもあって、リハも合わせると全部で6時間くらい唄ったんですよ。その次の日の朝からですからね、今回のレコーディングを一気にやったのは。メンバーやスタッフがクタクタなのに「おい、あともう1曲行くぞ!」ってみんなを引っ張ったりして、そういうのを僕は平気でやれちゃう。いつまでも“我が道を行く”だし、やりたいことがいっぱいありすぎるんです。外道がデビュー50周年を迎える時は日比谷の野音が100周年だから、また野音でもライブをやりたいし。野音が90周年の時は外道として『10円コンサート』に出ましたから。…ね? だからやっぱり、1000年くらい生きないとダメなんですよ(笑)。

(Rooftop2018年11月号)