ナイキ偽物つかまない!売買アプリ 市場に風穴 アップル一押し米新興企業 ミュージカル制作支援も

スニーカー売買仲介アプリ「ゴート」のエディ・ルー最高経営責任者(右)、アップル提供

 スマートフォンやタブレットといったモバイル端末の普及を背景に、ニッチ(隙間)分野でアプリを開発して急成長を遂げるスタートアップ企業が米国で続々と出てきている。記者は米アップルが11月上旬にニューヨークで開いたスタートアップ企業の取材イベントに各国メディアとともに参加した。アップルが一押しする2社は、ITをうまく活用し、既存産業に風穴を開けていた。(共同通信=ニューヨーク支局・吉無田修)

 スニーカー市場

 愛好家の間で高値で取引される米ナイキのスニーカー「エアジョーダン」などを扱うスニーカー専門の売買仲介アプリ「ゴート」。米カリフォルニア州カルバーシティに本社があり、アプリのアイコンはヤギ(Goat)のマークだ。

 「米大手ネットオークションで買ったスニーカーが偽物だった」(エディ・ルー最高経営責任者)という苦い経験が、2015年に同社を設立したきっかけで、スマートフォンを使う手軽さと信頼性の高さを売りにしている。

 ゴートは、人工知能(AI)技術の活用に加え、担当者が、出品した実物のスニーカーを詳細に鑑定する。スニーカーに残る各メーカー工場の独特のにおいや、プラスチックの材質も確認しているという。

 利用者は1千万人に上り、この1年で4倍に増加。2017年の売上高は前年比6倍。今年に入ってからの売上高が1000万ドル(約11億円)を超えた出品者もいるといい、新たなビジネスの機会を創出している。

 ゴートは今年2月、米有名スニーカー店「フライトクラブ」を買収。「実際に見たり、触ったりしたい顧客」(ルー氏)も取り込み、ネットと店舗の融合を目指している。

 ニューヨーク・マンハッタンにあるフライトクラブの店舗は、れんが造りの壁一面にカラフルなスニーカー。映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」で使われたモデルのナイキスニーカーは4万5000ドル(約510万円)の値札が付き、ガラスに囲われた部屋に置かれ、宝飾品のようだった。

 ゴートは、年末商戦が本格化する23日の「ブラックフライデー」に向けて、現実の光景に架空の物体を重ねて映し出す「拡張現実(AR)」技術を使ったポイントラリーを始めた。

 ポイントは、スニーカー文化に関係する世界125地点。フライトクラブ店舗のほか、日本のファッションブランド「コムデギャルソン」の1号店(東京)なども含まれる。現地でスマートフォンをかざせば、AR映像が映り、人気スニーカーや商品券が当たる抽選会のチケットが手に入る。ネットの世界と実体験を融合する取り組みの一環と言えそうだ。

エンタメの制作支援アプリが入ったタブレット端末を利用する人々、アップル提供

 エンタメ市場

 ニューヨーク・ブロードウェーで公演中のラブコメディー映画「プリティ・ウーマン」のミュージカル版の舞台裏では、エンターテインメントの制作支援アプリが入ったタブレット端末が活躍する。

「これまで10ポンド(約4・5キロ)の紙のファイルを抱えていた」(ミュージカルの振付師)が、1台のタブレット端末で済むようになった。

 「プロダクションプロ」と呼ばれるこのアプリは、台本だけでなく、出演者やその衣装が場面ごとに見やすい形で整理され、舞台の裏方の仕事がスムーズに行える。アレキサンダー・リビー最高経営責任者は「ショーの制作に必要な情報の全てを一目で見られる」と説明する。

 プリティ・ウーマンの制作責任者によると、12週間かかるミュージカル制作では1日約30ページで変更があり、そのたびに関係者50人超に配布する。大量の不要な紙が発生するが、このアプリを使うことで、こうした紙の無駄も削減できるという。

 プロダクションプロは2013年に設立され、ニューヨーク・ブルックリンに本社を置く。従業員はわずか10人だが、ブロードウェーのショーの2割で採用されている。米メディア・娯楽大手ウォルト・ディズニーも映画やテレビ番組、テーマパークのショーの制作で活用。米国やカナダの学校でも利用が広がっているという。

 アップルと法人市場

 こうしたビジネスを支えるパソコンやモバイル端末。調査会社IDCによると、2018年4~6月期の法人向けパソコンの世界出荷台数は基本ソフト(OS)別で米マイクロソフトが96%を占め、アップルは2%、米グーグルは1%。一方で、タブレット端末はアップルが37%と首位で、グーグル(35%)、マイクロソフト(28%)と続いた。

 調査会社ガートナーのアネット・ジマーマン氏は、法人向けのパソコン市場はマイクロソフトと、端末メーカーによる囲い込みが進んだと分析。「(アップルは)シェアを求めているのではなく、教育や建築のほか、クリエイティブな仕事、医療などの分野で成功したいと考えている」とみている。

 一方、タブレット端末市場について、IDCのトム・マネーリ氏は「経営幹部や従業員から(使い慣れた)アップル端末の対応を求める声が社内で広がり、足場を築いた。安全性の高さも評価された」と分析している。

 アップルの製品やサービスは一般消費者向けのイメージが強いが、この数年、法人向けサービスを展開するIT企業と協業し、アップル製品のビジネス利用の拡大に力を入れている。IBMやセールスフォース・ドットコムとは法人向けアプリ開発で、シスコシステムズとはネットワーク分野で、アクセンチュアやデロイトとはコンサルティングで、それぞれ提携している。

ティム・クックCEO

 アップルがアプリをネット上で販売する「アップストア」を始めて、今年で10周年。ティム・クック最高経営責任者は6月の開発者会議で「数多くの会社が誕生し、何千万もの雇用が創出され、新しい業界が誕生した」と述べた。

 2018年9月期通期決算で、アプリ販売を含むサービス部門の売上高は前期比24%増の371億9千万ドル(4兆2千億円超)に上った。アップストアのアプリ収入の一部はアップルに入る仕組みで、アプリを使ったビジネスは、スマートフォンの販売台数が伸び悩む中で重要な収益源に成長している。

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