韓国「徴用工判決」問題に北朝鮮が参戦! 日本政府はどう向き合うか

北朝鮮の朝鮮労働党機関紙・労働新聞は11日、「過去の罪悪を否定する厚顔無恥な妄動」と題した論説を掲載した。韓国最高裁が日本企業に賠償を命じた元徴用工訴訟の確定判決を支持すると同時に、判決を拒否する日本政府を非難する内容だ。

論説は、安倍晋三首相が判決について「あり得ない」などと述べたことを「居直りと破廉恥の極致と言わざるを得ない」などと非難。

また、日本は「840万人余りを誘拐、拉致、強制連行して戦場や重労働に送り込み、20万人の女性を性奴隷にした」と主張し、「日本の過去の罪悪に対する謝罪と賠償を必ずや百倍千倍にして受け取って見せる」と強調した。

北朝鮮は最近、歴史問題で韓国支持の論陣を張ることが多い。

韓国世論を自らの側に引き付けつつ、韓国と日米の分断を加速させようという意図があるのかもしれない。

だが、日本政府は決して、北朝鮮のこうした主張を軽視すべきではない。日韓が1965年の国交正常化に際して締結した請求権協定では、日本が韓国に3億ドルを無償供与することなどで、国と国民の間の請求権問題については「完全かつ最終的に解決された」とされている。

日本側はこれを根拠に韓国最高裁の判決を「あり得ない」としているわけだが、言うまでもなく、日本と北朝鮮の間には請求権協定のようなものは存在しない。完全に白紙の状態なのだ。

韓国とアメリカが北朝鮮との対話を進める中で、日朝対話がなかなか始まらないのは、日本人拉致問題の進展が見込めないからだ。この問題で、北朝鮮が日本側の満足できる答えを出すのはかなり難しそうだ。

だが、ハードルとなっているのはこれだけではない。仮に拉致問題が大きく進展し、日朝国交正常化交渉が本格的に始まったら、歴史問題を巡る北朝鮮の攻勢は、かつての韓国の比ではないだろう。

戦争中の日本の行動を記録した資料の多くは、1965年には埋もれた状態にあったが、その後の研究で大量に発掘された。北朝鮮はそれらを韓国や中国はもちろん、日本国内やアメリカからも入手し、日本政府にぶつけて来るだろう。

日本と国交正常化した当時の韓国はアジアの最貧国のひとつであり、今は北朝鮮が同様の立場にあるわけだが、それぞれが置かれた状況は大きく異なる。近い将来、日本と北朝鮮が対話を始めるとすれば、非核化もその時点までに一定の目途がついているはずで、韓国や中国の対北支援も本格化しているだろう。北朝鮮としては、日本からの「賠償マネー」が欲しいには欲しいが、それを待たずとも経済発展は可能というわけだ。

1965年当時の韓国ほどには、日本が足元を見る余地は少ないということだ。また、日韓国交正常化が双方の「妥協」の産物だとすれば、北朝鮮はそれを拒否して徹底的に日本の責任を追及することで、韓国世論の支持をいっそう引き付けることができる。

安倍氏は再三、北朝鮮との対話に積極的な発言をしているが、果たしてこうした歴史問題までをも念頭に置いて言っているのだろうか。彼の歴史観からすれば、とうてい「やりたい仕事」であるとは思えないのだが。

とはいえ、日本が北朝鮮との過去清算を露骨に回避すれば、それはそれで非難を浴びる。しかし恐らく、日本政府が北朝鮮国内の人権侵害を強力に非難し続けるならば、日朝交渉が本格化する日はそう簡単にはやってこない。そもそも、国民の人権に配慮しない独裁政権に賠償を行ったところで、過去清算が意味を成すとも思えない。

米韓が北朝鮮の人権問題から目を背けているために、国際的な追及はやや弱まっているようにも見えるが、決して動きがなくなったわけではない。この際、日本政府は自らのリードで、北朝鮮の人権論議をもう一度盛り上げて見たらどうだろうか?

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