<隠れた名盤> 北山たけし『北山たけし2019年全曲集』 熱く歌い上げてもどこか優しい

北山たけし『北山たけし2019年全曲集』

 デビュー15年目となる男性演歌歌手の毎年末恒例の“全曲集”最新版。年代順の収録ではないが、通して聴くと3タイプの歌唱が楽しめる。

 一つはデビュー曲『片道切符』から09年の『剣山』あたりの北島三郎から伝授したであろう力んだ歌唱。そして、10年から15年あたりの優しさが垣間見える歌唱。前者は紅白歌合戦に出場していた時期で演奏も含め勢いがあるが、平尾昌晃作曲の『かたくりの花』など後者の方が憂いや迷いが滲み出ていて人間的に深みがある。

 そして、近年の歌唱は、デビュー曲と同じ原譲二作詞・作曲の18年発表『津軽おとこ節』を聴き比べても違いは明らかで、たくましくもまろやかだ。大江裕とのデュエットが話題の歌謡ロック『ブラザー』の北山ソロ・バージョンも、辛抱した後で吠えるといった内容に合わせて、熱く歌い上げてもどこか優しい。1曲勝負のシングルではなく、トータルで聴かせるアルバム向きの歌手になった気がする。

 本作を聴けば、出逢った人の第一印象ではなく、更なる意外な魅力にも触れてみたくなるはず。

(テイチク・2778円+税)=臼井孝

© 一般社団法人共同通信社