お茶の海を泳ぐ“動物”たち 水産会社がティーバッグ作り

By 関かおり

イルカとタヌキのティーバッグ

 イルカや猫、犬など、動物の形のティーバッグが話題になっている。作っているのは冷凍カニの輸入販売や卸売りなどを手がける大翔水産(埼玉県戸田市)。同社にとっては異分野の事業だが、SNSで話題になったことなどから人気に火が付き、1番人気のタヌキは来年3月まで予約待ちだ。

 ブランド名は「オーシャンティーバッグ」。中身のお茶はハーブティーやほうじ茶など動物によって異なる。現在売られていないものも含めてこれまで100種類近いティーバッグを販売した。当初は水産会社らしくジンベエザメなど海の生き物を取りそろえていたが、今ではパンダなどの陸生生物にも範囲を広げ、幅広く取り扱っている。

 中心となって取り組んでいるのは同社の社長の高橋翔太さん(35)。中学生の時から絵を描くのが趣味だったといい、ティーバッグやパッケージは自らデザインしている。中身のお茶も自分で試飲して決め、アルバイトと一緒に手作業でティーバッグに詰める。ほぼ手作りのため、最近は受注激増で寝る間もない日々だが「全く知らないことをやるのは楽しい」という。

 高橋さんは2013年に大翔水産を立ち上げ、カニの取引をしていた。しかし「慣れてしまうと時間に余裕ができ、新しいことをやりたくなった」ことから、本業の傍ら、ホームページを格安で制作。日本茶の販売などを手がける松下園(熊本県天草市)からショップサイト制作の依頼を受けた。高橋さんが「付加価値をつけたほうが売れる」と提案すると、担当者に「天草市はイルカウォッチングが有名なので、イルカの形のティーバッグを作ってみたい」と言われたという。

 早速ティーバッグ作りに乗り出したが、どの会社に頼んでも「使い捨てのものにそんな高いコストをかけても売れるわけがない」と断られた。仕方なく独学で一から作り方を研究。ティーバッグに適した素材を紙メーカーに聞いたり、使えそうな糸を取り寄せて試したり、試行錯誤を繰り返してイルカのティーバッグを完成させた。15年に松下園と共同でクラウドファンディングを利用してスタートすると、瞬く間に人気が爆発。次々シリーズを発売し、これまで約10万個を売り上げた。

 中でも人気のタヌキはツイッターで話題となり、「こんなの見たことない!」「かわいすぎて飲めない」と購入者からの声が寄せられた。高橋さんは「自分しかできない仕事がしたいと思っていた。こうしてお客さんに喜んでもらえるのはうれしい」と話す。とはいえ今は注文が殺到し、なかなか発送が追いつかない状態。これから年末にかけてカニ取引も忙しい時期に入るといい、「新商品の開発ができない」「元々のお客さんに売りづらくなってしまった」とジレンマもある。ただ工場で大量生産する気はない。「万人受けするものではなく、100人のうち1人でも気に入ってくれるものを作っていきたい」という。

 現在はイベントで限定販売するオオカミのティーバッグと、サンタクロースの衣装を身につけた猫のティーバッグを制作中。今後は海の生き物の形の入浴剤などさらに分野を拡大したい考えだ。 (共同通信=関かおり)

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