くんちの魅力 長崎は「厳かさ」 唐津は「柔軟さ」 一緒にPRしたらファン増えるかも

 長崎市民にとって「くんち」といえば「長崎くんち」(10月7~9日)。だが、佐賀県唐津市の「唐津くんち」(11月2~4日)も2016年に国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録されるなど気になる存在だ。ともに江戸時代から続く国重要無形民俗文化財。長崎くんちを取材した余勢を駆って、唐津くんちに初めて行ってみた。見えてきたのは長崎の「厳かさ」に対する唐津の「柔軟さ」だった。

 ◆もてなし料理

 「エンヤー、エンヤー」「ヨイサー、ヨイサー」
 3日午前、JR唐津駅周辺。囃子(はやし)の笛、鐘(かね)、太鼓の音色に包まれる中、約2~3トンの獅子や魚をかたどった巨大な曳山(やま)を約300人の曳(ひき)子が掛け声を出しながら綱で引いていた。
 曳山は毎年同じ14町が1台ずつ出すのが習わし。赤や緑、金箔(きんぱく)のうるしで鮮やかに彩られ「赤獅子」「亀と浦島太郎」などがある。長崎くんちの庭先回りと違って、全町が同じコースを巡行するので、初めての観光客でも分かりやすい。
 参加町の一つ、京町の吉冨寛さん(61)によると、唐津くんちの参加者は3~80歳超。囃子は中学生と高校生が担当し、本番1カ月前から練習する。
 大人も子どもも半年以上前から稽古を重ねる長崎とは勝手が違う。吉冨さんは唐津の魅力について「毎年同じことをするので、子どもたちが参加しやすく、希望者も多い。住民の交流も深まる」と語った。
 吉冨さんの家に招かれて、驚いた。座敷の大きなテーブルには、たい茶漬けや刺し身、黒豆など、来客をもてなす「くんち料理」が100人分。唐津では各町の家にふらりと寄って、ご飯を食べながら交流できるのも魅力の一つという。「食べんね、食べんね」。勧められるままに、ごちそうになった。

 ◆強い「観光色」

 曳山14台が勢ぞろいするお旅所に向かった。道中、酒を飲み回しながら曳山を引く大人たち。お旅所で、にこやかに昼食を取るくんち関係者。いい意味での“ゆるさ”があった。
 神事色が強い長崎とは対照的に、唐津は観光色が強い。唐津曳山(ひきやま)取締会によると、かつて10月に開かれていたが、観光客が来やすいように1960年代から11月初旬の「文化の日」前後に開いているという。
 官民とも、福岡や海外へのPRに積極的。唐津駅ホームでも、地元観光協会の職員やボランティアの高校生が5人ほどで4カ国語表記の観光マップを配っていた。
 ユネスコの無形文化遺産登録効果もあり、昨年は3日間で過去最多の63万人、今年は49万人を集客した。
 唐津くんちを見た後で改めて感じた長崎くんちの魅力は、7年に1度しか各踊町の演(だ)し物が見ることができない“限定感”や、技を磨くところだ。一方、唐津くんちは市内外の人たちが参加しやすく、祭りを楽しみやすかった。伝統を後世に残すために、長崎くんちと唐津くんちを一緒にPRしてみたら、ファンがさらに増えるかもしれない。

獅子をかたどった巨大な曳山を綱で引く曳子たち=佐賀県唐津市
吉冨さんの家に招かれてごちそうになったくんち料理

© 株式会社長崎新聞社