【気象コラム】冬なのになぜ「小春日和」?

 文化庁では全国16歳以上の男女を対象に、1995年度から毎年「国語に関する世論調査」を行っています。14年度の調査で「小春日和」の意味を尋ねたところ、「初冬の頃の、穏やかで暖かな天気」と答えた人が51.7%、「春先の頃の、穏やかで暖かな天気」と答えた人が41.7%という結果が出ました。年代別にみると、30代以上では前者を選択した人が多く、20代以下では後者を選択した人が多くなっています。

小春日和の青空に映える黄葉と紅葉=筆者撮影

 「小春」とは旧暦10月の別名で、現在の暦では11月から12月上旬ごろにあたります。また、「日和」とは天候や晴天などの意味があります。つまり、「小春日和」とは、晩秋から初冬にかけての暖かく穏やかな晴天のことをいい、冬の季語となっています。

 6世紀に中国の年中行事を記した「荊楚(けいそ)歳時記」の10月(旧暦)の項に、「天気和暖にして春に似たり。故に小春という。」とあります。日本でも、吉田兼好の「徒然草」第155段に「十月は小春の天気、草も青くなり、梅も蕾(つぼ)みぬ」と記されていて、旧暦10月を「小春」と呼んでいることが分かります。

「小春」がつく言葉には、ほかに

小春空(こはるぞら)= 小春のころの穏やかに晴れた空

小春凪(こはるなぎ) = 小春のころの穏やかな海のなぎ

小春風(こはるかぜ)= 小春のころに吹く穏やかな風

などがあります。

 「小春日和」にあたる言葉は、諸外国にもあります。例えば、米国では「インディアンサマー」(インディアンが冬支度をする日和)。英国では「聖マルタンの夏」(11月11日の聖マルタンの日のころに現れる夏のような日和)。ドイツでは「老婦人の夏」(クモの糸が日差しに輝いて老婦人の白髪のように見えるから)などと呼び、それぞれ語源には諸説あります。春ではなく夏という言葉を使うのは、過ごしやすい陽気のイメージが夏ということなのでしょう。

 実は、日本でも夏という言葉を使う地方があります。それは、沖縄です。沖縄では11月中旬ごろまで日中の最高気温が25℃を超える夏日となる日があるため、春というには暖かすぎるということで「小夏日和」というようです。面白いですね。

典型的な小春日和の気圧配置(日本気象協会)

 日本語には、四季折々の景色や空を見上げて感じられることなど、季節を表す美しい言葉がたくさんあります。「小春日和」という言葉も、厳しい寒さが訪れる前の暖かく穏やかな晴天に、小さな春を感じて名付けられた繊細な言葉だと思います。青空の下で紅葉を楽しみながら、やわらかな日差しに包まれて「小春日和」を満喫したいものですね。ただ、「小春日和」となる日は、昼間はポカポカ陽気でも朝晩は冷え込みが強まりますので、体調を崩さないように気をつけてください。

 (気象予報士・久保智子)

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