【工場ルポ】〈世界有数のタンタル・ニオブ粉メーカー独「HCスタルクTaNb」のゴスラー工場〉独自技術「Mg還元」に強み

JX金属グループでシナジー創出

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 本格的なIoT・AI社会の到来で飛躍的な増加が見込まれる電子部品やデバイスに欠かせない材料をグローバルに供給するのが、JX金属グループのHCスタルクTaNb社(所在地・ドイツ、HCS・TaNb)。キャパシタ・半導体材料・SAWデバイス向けのタンタル(Ta)粉、ニオブ(Nb)粉で世界有数のシェアを持つ。7月のJX金属グループ入りを機に、シナジーの創出や新規分野の開発を加速させ、さらなる事業拡大を目指す。同社の主力工場「ゴスラー工場」を訪れた。(ドイツ・ゴスラー=相楽孝一)

 HCS・TaNbは、ドイツ(ゴスラー、ラウフェンブルグの2工場)、タイ(マプタプット)、日本(水戸)の3カ国に製造拠点を有し、米国の販売拠点を含めたグローバル4極体制でTa・Nb製品(高純度金属粉)の開発・製造・販売を行う。同社の技術力とマーケティング力に対する評価は高く、キャパシタやスパッタリングターゲット材向けのTa粉とSAWデバイス向けの酸化物で世界トップシェア、合金添加用などのNb粉も世界第2位のシェアを誇る。

 同社の主力工場であるゴスラー工場は、ドイツ北部ハノーファーから電車で約2時間にある古都ゴスラー近郊に立地する。鉱石やスクラップ原料からの製錬、金属粉への加工まで手掛ける一貫生産工場だ。原料となるのは、アフリカや南米などから調達される鉱石や、欧米や日本から集められたスクラップ原料などで、低品位の鉱石・スクラップ原料、東南アジアの錫製錬で発生した錫スラグの純度を高めて作られる中間原料も使われる。中間原料は同じくドイツにあるラウフェンブルグ工場で作られている。原料は基本的には鉱石が6割程度だが、価格変動などに合わせてスクラップや中間原料の比率を変動させながら生産している。

 それらの原料をブレンドしたものをケミカルプラントに投入する。ケミカルプラントでは5基あるタンクでフッ酸を用いて原料を溶解(100度強)する。溶解後は溶媒抽出を行い、溶媒側に不純物、水溶液側にTa・Nbが分離、その後でTaとNbを分離する。HCS・TaNbの神崎正一CEOは、「この工程での完全分離は非常に難しいが、当社の高い技術で実現している」と話す。

 Ta水溶液からは、五酸化タンタルをマグネシウム(Mg)還元で金属粉にする方法と、フッ化タンタル酸カリウムをナトリウム(Na)還元で金属粉にする方法の二つのプロセスを使い分けている。五酸化タンタルはTa水溶液を水酸化物に析出させ、ろ過して乾燥、焼成して作られる。この焼成の温度と時間が酸化物の純度に影響するため、非常に重要なプロセスだという。

 この後、五酸化タンタルはメタルプラントでMg還元によってTa粉に加工される。Mg還元は世界で同工場にしかない独自プロセスで、同社の優位性を支える技術。同プロセスで製造されるTa粉は高容量・高電圧のキャパシタに適したものになるという。

 Mg還元で金属化した後は乾燥工程などを経て、Ta粉の表面を最終加工する。Ta粉の表面に付着する酸化膜をMg蒸気で一旦除去し、表面の二次造粒形態を顧客の要求特性に合わせて整え、再度薄い酸化膜をつける。この工程が最終製品の特性を決める上で重要になる。非常に小さい孔を数多く持たせたスポンジ状の形態にする(比表面積を増やす)ことでキャパシタの高容量化が図れるというものだ。

 一方、フッ化タンタル酸カリウムは、Ta水溶液を結晶化して作られる。それをメタルプラントでNa還元を行い、水洗・乾燥してターゲット材向けのTa粉と、粒径を整えたキャパシタ向けのTa粉にする。ゴスラーのメインはターゲット向けで、キャパシタ向けは10年ほど前に同工場から移管したタイ工場が主力だ。このほか、ゴスラーでは、Nb水溶液を水酸化物に析出させ、ろ過、乾燥、焼成して五酸化ニオブも生産している。Nb粉はジェットエンジン部品(タービン)などの材料として出荷される。

 同工場はさまざまな工程で省人化が図られている。高品質なTa粉を焼成する工程では、焼き上がった粉をトレーに落とす作業までロボットが行うなど完全無人化プロセスを実現している。

 同社とJX金属は、もともとターゲット材向けのTa粉で取引関係にあったが、同社グループの一員となったことで多方面でのシナジー創出が期待される。ターゲット向けのTa粉などの加工を手掛ける水戸工場は、ターゲット材で世界トップシェアを有するJX金属の磯原工場の近隣にあり、緊密な連携による販売・製品開発面での強化などが期待できる。

 また、JX金属の銅粉、東邦チタニウムのニッケル粉およびチタン粉、タツタ電線の銅ペーストなどグループ内で保有する製品・技術およびそれらを展開する市場といった面でも親和性が高く、事業間での要素技術・情報の共有、人材交流などを通じて新規成長事業の加速も図れる。

 電子材料分野で数多くの世界トップシェア製品を抱えるJX金属グループの一員として、IoT・AI社会、ビッグデータ社会の到来に伴う急激な需要拡大に技術革新で対応し、プレゼンスの維持・拡大に努めつつ、グループのシナジーによって新たな事業領域も開拓していく考えだ。