盗難車不正輸出に「捜査共助」 県警、共謀罪施行で初適用

◆パキスタン当局と強力、6容疑者逮捕

 税関の許可を得ずに盗難車を輸出したとして、神奈川県警国際捜査課と戸部署などは15日、関税法違反(無許可輸出)の疑いで、輸出仲介会社社長の男(49)=東京都世田谷区=ら男女6人を逮捕した。県警は、6人が少なくとも盗難車約100台の不正輸出に関与していたとみて、実態解明を進める。被害総額は数億円に上る見込み。

 事件の捜査過程では、昨年7月の「共謀罪」法施行を受け、日本が締結を果たした国際組織犯罪防止条約の「捜査共助」を適用。同条約の締結国で盗難車の輸出先とみられるパキスタンの捜査当局から、県警が資料提供を受けた。県警によると「捜査共助」の適用例は、日本が条約を締結した同月以降、全国で初めて。

 他に逮捕されたのは、いずれもパキスタン国籍で解体工の男(52)=小田原市高田=、中古車販売会社役員の男(55)=東京都北区=の両容疑者ら。

 6人の逮捕容疑は、共謀して2016年7月、解体工の男の元妻(52)=同容疑で逮捕=名義で横浜税関から輸出許可を受けた乗用車4台を、無許可の盗難車4台にすり替えてコンテナ船に積載し、パキスタンに輸出した、としている。

 同課によると、輸出仲介会社社長の男は「窃盗の被害品かもしれない車を輸出した」と容疑を大筋で認め、解体工の男は「中古車の運搬を頼んだだけ」、中古車販売会社役員の男は「分からない」と否認している。

 同課によると、税関の輸出手続きに使われたのは、いずれもオークションで落札した格安中古車だった。県警はダミー車を用意した上で正規手続きを踏み、盗難車とすり替える手口で6人が組織的に不正輸出を繰り返していたとみて調べを進める。

◆国際捜査 より迅速に 「共謀罪」恩恵強調に懸念も

 盗難車を不正に輸出した疑いで男女6人が逮捕された事件で、県警は国際組織犯罪防止条約に基づく「捜査共助」を初めて適用した。国境を越えて暗躍する犯罪集団と対峙(たいじ)してきた県警の捜査関係者は、従来より国際捜査がやりやすくなったと効果に太鼓判を押す。一方で「共謀罪」法を危険視する専門家は、今後も「捜査共助」が多用されることで恩恵ばかりが強調され、「共謀罪」法の本質が見えにくくなることに警戒感を示す。

 県警によると、同条約締結前の日本では、捜査当局が政府経由で協力を求める「外交ルート」が国際捜査の主流だった。ただ「回答を得られる確約がなく、スピード感にも欠けていた」と捜査関係者。実際に県警は、盗難車の輸出先の一つとみられる中東の非締結国にも協力を要請したが、返答はないという。

 そうした課題の解決に期待されたのが「捜査共助」で、今回はパキスタンへの要請から2カ月余りで、盗難車が同国に輸入された形跡を示す資料が得られた。起訴後の公判でも証拠となるもので、捜査関係者は「条約がなければ捜査にもっと時間を要した」と話す。

 同条約は、薬物の密輸やマネーロンダリング(資金洗浄)などの封じ込めを念頭に、2000年の国連総会で採択された。日本は同年に署名したものの、「重大犯罪の合意(共謀)」について犯罪化を義務付ける条文があるため、長く締結には至らなかった。

 政府はこれを根拠として、犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」法の成立を急ぎ、昨年7月の施行にこぎ着けた経緯がある。菅義偉官房長官は、同法施行1年となった今年7月の会見で「捜査共助や逃亡犯罪人の引き渡しを相互に求められるようになった」と成果を強調した。

 これに対し、野党や日弁連は「そもそも『共謀罪』法を新設せずとも条約締結は可能だった」と主張。刑法の専門家は「条約のメリットがあるのは確かだが、監視社会の強化を招く恐れがある『共謀罪』法とは切り離して考えるべきだ」と指摘している。

神奈川県警本部

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