ESG投資の成長はSDGsとパリ協定が牽引:識者指摘

「経済の入れ替えが始まっている」ことを説明する末吉竹二郎氏

国内のESG投資は、JSIF(日本サステナブル投資フォーラム)の調査によると、2016年から1年で136兆円へと2.5倍に急成長している。この背景として、国連環境計画・金融イニシアティブの末吉竹二郎特別顧問は11月

の「市民環境フォーラム」で、「SDGsとパリ協定によって金融の大きな流れが変わった」と指摘した。末吉氏は「財務状況が良くてもCO²を出す企業は評価されなくなり、今後は投融資の運用資産の構成にもサステナブルへの関与と情報開示が求められるようになるだろう」と解説した。(箕輪弥生)

国連環境計画・金融イニシアティブの特別顧問に加え、WWFジャパンの会長や自然エネルギー財団の代表理事などを務める末吉竹二郎氏は「金融と地球環境問題」をテーマに長年活動をしている。その経験から「明らかに2015年のSDGs(持続可能な開発目標)とパリ協定の誕生をきっかけに経済の潮目が変わった」と話す。

21世紀の金融は、「SDGsの問題解決とパリ協定の目標達成」を支える金融でなければならないことが明白になり、「SDGsが何を要求しているのか、どうしたらパリ協定の目標に近づくか」が投融資の判断基準になってきているという。

英国の大手金融HSBCは、SDGsの17の目標のうち、昨年同社が選択した7つの目標の達成を目指す投融資のため、10億米ドル(約1100億円)の「サステナビリティ・ボンド」を発行するなど、低炭素経済への移行に向けた融資やSDGs の達成を支援するための資金調達と投資活動を推進している。オランダの大手保険会社であるINGはSDGsの目標を各業務分野に割り当て、事業分野ではSDGsの目標12(つくる責任つかう責任)や目標8(働きかいも経済成長も)などを明確に強化している。

一方で、気候変動のリスクが財務リスクになることが認知されてきたことを末吉氏は指摘する。たとえば、業績の良い企業や金融であっても、地下に眠ったままの化石燃料をかかえた企業は座礁資産が多くリスクが高いと判断される。ここ数年で銀行が化石燃料に関わる融資を停止したり(ダイベストメント)、大手の再保険会社が石炭火力やオイルサンドなど化石燃料に関わる新規事業との保険取引を停止したりと、その動きは加速している。

このことは元・ニューヨーク市長であるマイケル・ブルームバーグ氏が座長を務め、世界主要25カ国の財務省、中央銀行総裁が参加メンバーとなっている国際機関の「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」が出した勧告が象徴的だ。TCFDの勧告は気候変動がリスクにも機会にもなることを示し、それに関わる情報を企業や金融機関に開示することを求めるものだ。今年9月にはこの勧告について500を超える機関が支持するようになった。

すでに、英国中央銀行が銀行セクターを対象に気候変動のリスクと機会の調査に乗り出していることや、ノルウェー国民年金基金が投資先の運用資産の構成状況の「カーボンフットプリント」の情報開示を求めていることなども紹介された。

このようなESG投資の今の動きを解説した末吉氏は、日本の金融界がサステナビリティへの関心が薄く、認識が低いと海外からの厳しい声があることも指摘し、「今後は投融資に関してもサステナビリティへの関与が非常に重要になり、その情報開示がさらに求められるようになるだろう」と話した。

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