カネミ油症50年 次世代影響 尽きぬ不安 教訓継承 きょう五島で記念行事 長大医師 母子手帳で実態把握へ

 カネミ油症事件が1968年10月に発覚して50年。被害者が多い五島市では17日、犠牲者を追悼し教訓を考える記念行事「油症の経験を未来につなぐ集い」を開く。被害者が現在望んでいるのは子や孫ら次世代の救済制度などだが、国や原因企業の動きは依然鈍い。集いではこれらの問題も議論される。一方、母子手帳の記録から次世代の健康実態を探る長崎大の研究者らの調査が新たに始まっている。
 子や孫に影響があるのでは-。被害者は、原因物質ダイオキシン類による健康被害の世代を超えた連鎖に不安を抱えている。五島市奈留町の認定患者、岩村定子さん(69)もその一人。19歳のころ、奈留島で汚染油を摂取。4年後に結婚し、24歳で授かった長男は唇が裂け、肛門は閉じ、心臓にも重い障害があり、生後4カ月で亡くなった。その後、次男と長女が誕生。「五体満足で生まれてくれて、ほっとした」
 ただ次男と長女は幼い頃、歯茎の色素沈着や疲れやすさなど油症を疑う症状があった。2010年にやっと油症認定された岩村さんは、わが子2人に自らの症状や次世代被害の可能性を明かした。次男は昨年初めて油症検診を受けたが未認定。子どもがいる長女はまだ受診していない。「ダイオキシンが体に残る私から生まれた子や孫に何の影響もないとは思えない」。岩村さんは不安を募らせる。
 こうした被害者の思いに接し、7月から新たな調査を始めたのが、長崎大大学院地域医療学分野客員研究員で、県上五島病院小児科の小屋松淳医師(38)。4年前に五島中央病院で被害者の声を聞いたのがきっかけだった。
 ダイオキシン類は、母体から胎盤や母乳を通じ子に移行するとの研究報告があるが、診断基準設定を担う全国油症治療研究班は「次世代被害は医学的に確認されていない」との立場。このため次世代の大半は未認定。親と同様の症状でも補償や医療費支給を受けられない。
 小屋松医師は、22年3月末までに県内の認定患者の母親から生まれた子世代、孫世代の母子手帳から、出生時や1カ月~3歳の定期健診時の体重、身長、心理検査結果などのデータを集め、一般的な発達発育(心や体の成長)との「差異」があるかを統計的に探る。手帳のデータ収集は、子世代、孫世代それぞれ各100人分を目標としている。
 ダイオキシン類の血中濃度が高い母親から生まれた子は低体重の傾向との報告もあり「研究で(一般的な人との)差があると分かれば若い世代への予防的検査や治療につなげられる。差がないなら不安や偏見を取り除ける」と意義を語る。
 母子手帳が捨てられてしまえば貴重なデータは失われる。「研究記録を残し、次の世代の医療者に引き継がなければ」。小屋松医師はそう話す。

「子や孫に影響がないとは思えない」と不安を語る岩村さん=五島市奈留町 小屋松淳医師

© 株式会社長崎新聞社