5年ぶりのFA市場参戦 なぜソフトバンクは浅村&西の両獲りを狙うのか?

去就に注目が集まる浅村栄斗(左)と西勇輝【写真:荒川祐史】

浅村の加入で内野の懸念は一気に解決、西は先発4、5番手を埋める

 ソフトバンクの2年連続日本一で幕を閉じた2018年のプロ野球界。オフシーズンに入り、目下の注目はFA権を行使した選手たちの動向となっている。今オフは西武の浅村栄斗内野手、中村剛也内野手、炭谷銀仁朗捕手、オリックスの西勇輝投手、そして広島の丸佳浩外野手の5人が権利を行使。中村は西武への“宣言残留”が決まり、残る4選手の去就が連日、メディアを賑わせている。

 このFA市場で主役となりそうなのが、6年連続でのFA補強を狙う巨人と、そして5年ぶりのFA市場に参戦するソフトバンクとなるだろう。巨人は丸と炭谷、そしてソフトバンクは浅村、西の両獲りを目指している。巨人のFA市場参戦は毎年のことだが、ソフトバンクの参戦は意外にも鶴岡慎也、中田賢一の2人を獲得した2013年オフ以来、5年ぶりだ。

 2年連続日本一に輝き、相変わらずの選手層の厚さを証明してみせたソフトバンク。15日に交渉が解禁され、すでに西、浅村両選手との交渉を済まし、ラブコールを送ったようである。充実の戦力を誇る中で、果たしてこの2人をチームに加える必要性はあるのだろうか。

 浅村の本職である二塁手は長年レギュラーが固定されなかったポジション。今季限りで引退した本多や明石、川島が務め、今季途中から牧原が台頭したものの、来季はまだ未知数。内野手全体を見回しても、来季いきなり台頭してきそうな若手の突き上げはない。さらには三塁の松田、一塁の内川が今季大不振。もちろん来季の復活を期待するのだが、その反面でもしもの場合の“備え”は必須だ。牧原、グラシアル、明石は外野もでき、浅村も二塁以外に一塁、三塁でもプレー可能だ。川島、西田といった面々に、まだ28歳の浅村まで加われば、向こう5年間は一塁、二塁、三塁の懸念が一気に解決できる。

 先発投手陣も他球団ほど困窮してないとはいえ、補強ポイントだ。現状で来季のローテとして固まっているのは千賀、東浜、バンデンハークあたりか。ミランダにはモイネロやスアレス、そして復帰するサファテらとの外国人枠の問題がつきまとう。武田、石川も先発に回る可能性はあるが、シーズン終盤からポストシーズンにかけての中継ぎでの働きから適性も感じられる。和田の復帰は不透明で、大竹や高橋礼も計算に入れるにはまだ早い。西が加われば、先発4番手、5番手を確固たるものにしてくれる。

300億に迫る売上高は経営努力と営業努力の賜物

 今季はペナントレース2位。西武に敗れ、2年連続のリーグ優勝を逃した。ソフトバンクが目指すのは、来季のリーグV奪還だけでなく、恒久的な強さ。球団は巨人のV9時代を超える黄金期の到来を目指しており、今オフに補強に動くのも必然だった。補強が若手の出場機会を奪うと言われるが、ソフトバンクの場合、上林や牧原、加治屋、石川など台頭してきた若手は、きっちりと1軍の戦力になれるだけの力を身につけ、出てきた。

 球界の戦力バランスが崩れるといった類の声も聞くが、常に優勝を狙うプロ野球界でこの声はお門違いだろう。どこの世界でも、それこそビジネスの世界でもそうだが、その世界のトップを走るものがペースを落とし、遅れをとっているものの立ち位置まで降りてきてしまっては、その世界のレベルアップには何ら繋がらない。むしろ必要なのは前を行くものがどんどんと走り、後を追うものが今以上に懸命に努力、工夫を重ねて追いついていくことだ。日本のプロ野球が発展していくためにもこれが必要だろう。

 ソフトバンクは、親会社の知名度も相まって“金満球団”と、いまだに揶揄される(もはや孫正義オーナーも“金満上等”としてしまっているが……)。ただ、その実、球団単体で300億円近い売上高を毎年生み出し、独立採算で球団を経営している。多額の年俸、補強費を使っても、10億円を超える黒字を生み出しており、ただの“金満”ではなく、経営努力と営業努力、そして安定した強さによって、その莫大な資金力を生み出している。

 必要なものには資金を惜しまず、結果を残した選手にはそれ相応の報酬を払う。確かに、浅村や西がいなくとも、かなりの高い確率でソフトバンクは来季も強いだろう。ただ、ソフトバンクが目指すのは、来季優勝するだけではない。5年、10年と安定して勝ち続けるために、本当に必要だと判断したら、全力を注ぎ込んで補強に動く。だからこその浅村&西の獲得なのだろう。(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)

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