コラム凡語:ロナルド・ドーアさん

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 「虚業より実業」「金儲(もう)けよりものづくり」。よく使われる対比だが、日本に特徴的な価値観の表れなのだという。13日に93歳で死去した社会経済学者、ロナルド・ドーアさんは8年前、同志社大での講演で指摘した▼英国生まれ。大学で日本語を学び、戦後、農地改革の研究で初来日した。都市の下町や郊外の農村に住み込んだ。東京近郊の農村に通い、住民の声を盛り込んでまとめた著書は英語圏でベストセラーとなった▼日本社会の好きな点を問われると、「生産主義」と答えた。「投機的なカネづくりより、立派なものをつくり、人にサービスすることがまともな生活様式と考えられている」▼それだけに、1990年代後半からのグローバル化や「構造改革」を強く懸念した。階級社会の出身だから、格差を許す政策の行き先を見通せたのだろう▼英米流の株主優先経営ではなく、地域や取引先、従業員も重視せよと説いた。自社株を経営幹部に与えるストックオプションは「経営者と株主の利害が同一という意識を植え付ける」と厳しく批判した▼最晩年の著書では、大好きな日本が米国のビジネス大学院で教育を受けた「洗脳世代」の「インチキなスローガン」で作り替えられた、と手厳しい。書名は「幻滅」。知日家ならではのメッセージだった。