フラッグシップのLSに通じる風格
歴代で初めて日本に導入されるはこびとなったレクサス 新型ESを、生産工場がある福岡の地と、お隣りの山口にかけてテストドライブする機会に恵まれた。
山口宇部空港にて、ズラリ用意された試乗車と対面。堂々たるサイズと新世代レクサスを象徴する内外装デザインは、フラッグシップのLSに通じる風格を感じさせる。
さらなる「上質な快適性」を追求した新型ES
これまでも乗り心地や静粛性、広い室内空間などが高く評価されてきたES。新型では、さらなる「上質な快適性」を追求して開発陣が作り込んできたという。
室内は広々としていて、後席の居住性も横方向、前後方向とも十分すぎるほど余裕がある。
小型化したハイブリッドバッテリーをシート後方ではなくクッション下に搭載したことで、ラゲッジルームを広く確保するとともに低重心化を図ることができている。
バッテリーの上にクッションの厚いリアシートを配したためヒップポイントがやや高めになっているが、これほど流麗なフォルムながら頭上のクリアランスを確保できているのもたいしたものだ。
量産車世界初採用デジタルアウターミラーの実際の使い勝手は・・・
色気すら感じるインテリアのセンターに鎮座する大画面のディスプレイも見やすくてよい。
そして、すでに大きな反響を呼んでいる量産車世界初採用デジタルアウターミラー(“version L”のみ選択可能)は、やけに後付け感のあるディスプレイが配されるのは覚悟だが、目線移動量の減少や小型化による斜め前方の視界確保、ウインカー作動時や後退時に画角が拡大し広い視界を得られたり、天候の影響を受けにくいなどといった多くのメリットがあるという。
ただし、50歳の筆者にとっては焦点が合わせづらい感があったり、もう少し画像が精細なほうがありがたいだろうと感じたのは否めず。そのあたりどんな感触なのか販売店でも確認できるので、購入検討者は試してみるとよい。
しっかりと差別化された“version L”と“F SPORT”
上級仕様の“version L”と、歴代で初めて新型ESに設定された“F SPORT”を途中で乗り換えつつ走ってみると、味付けが少なからず差別化されていることがよくわかった。
インテリアの装備面でもメーターも違えば、シートも“F SPORT”ではサイドサポートの張り出した、よりスポーティな形状となっている。
なお、両車では足まわりが異なるが、いずれもパフォーマンスダンパーが付き、標準装着されるタイヤは、同じ銘柄のダンロップSPスポーツマックス050の18インチと19インチとなる。
「絶品」の乗り心地を生む、スウィングバルブショックアブソーバー
中でも“version L”には新技術のスウィングバルブショックアブソーバーが与えられるが、注目のその乗り心地は、まさしく「絶品」と評するのが相応しいほど素晴らしいものだ。
サスペンションがしなやかに動いていて、巧みに路面からの入力を緩和してキャビンに伝えない。それでいて専用のバルブが減衰力を発揮し、振動を瞬時に収束させて、フラットな乗り心地を提供してくれる。足まわりのソフトなクルマにありがちな腰砕け感もない。
この乗り味には感心せずにいられなかった。
新型ESの性格に相応しく味付け
対するAVS(アダプティブ・バリアブル・サスペンション・システム)を装備する“F SPORT”は、全体的にひきしまった味付け。
といってもけっして不快なほどではなく、“version L”に比べるとやや硬さを感じるというニュアンスだ。そのあたりは、あくまで新型ESの性格に相応しく味付けされているようだ。
新型ESに相応しい快適なステアリングフィールを実現
一方でハンドリングは、“F SPORT”のほうがよりクイックでスッキリとしていて好印象だ。
操舵に対する応答遅れがなく、グリップ感も高く、軽快感もある。さらにAVSはSPORT Sモードに加えて、より走りに特化したSPORT Sモード+も選択できる。
“version L”は正確なステアリング操作が不得手な人でも姿勢を乱しにくいことを意図してか、ステアリングのセンター付近があえて緩やかに設定されていて、最初に無反応なアソビがあり、少し切ったところから曲がりはじめる設定となっている。
こちらのほうが乗りやすく感じる人もいるだろうし、好みの分かれるところだが、実は微小舵の領域で無意識のうちに修正舵をくりかえすことになりがちだ。
いずれも路面の状況を伝えつつもキックバックは小さく抑えられていて、新型ESに相応しい快適なステアリングフィールを実現していた。
どちらの乗り味が好みかと聞かれたら、筆者としては“F SPORT”なのだが、“version L”のあまりに快適な乗り心地にも後ろ髪を引かれて、悩ましいところではある。
こんなにリニアだったっけ?と感心させられるパワートレイン
パワートレインについては、世界トップレベルの熱効率を誇る2.5リッター直列4気筒エンジンとの組み合わせになる新しいハイブリッドシステムも基本的にカムリと共通だが、ひさびさにドライブして、こんなにリニアだったっけ?と感じた。アクセルワークとの心地よいダイレクト感もあり、1.7トンあまりの車体を力強くひっぱってくれる。
半面、全体的な静粛性は高く、動力性能的に不満はないものの、欲をいうと少し音質が気になる面はあった。アクセルを踏み増して、パワーメーターで、パワー側に少し振れるぐらいの踏み込み量で、4気筒っぽいやや高級感に欠ける音がときおり入ってくる。もう少し抑えているとなおよいかなというのが正直なところだ。
また、ACC作動時に右に車線変更した場合にほどよく加速を強めるという新しい制御を試してみたところ、なかなか按配がよかった。加えて、LTA(レーントレーシングアシスト)作動時に、既出の車種で見受けられた、左右の車線に寄っていってしまう症状が、いくぶん改善されたように感じられた。後発ゆえそういった部分もいろいろと進化しているわけだ。
新たな一歩を踏み出したレクサスの意欲作
レクサス 新型ESに興味を持っている人は大勢いることに違いないが、全体的な完成度としてはなかなかのものだったように思う。
開発陣がこだわる「上質な快適性」もたしかにあったし、そう遠くないうちに消滅すると見込まれるGSの後継としての期待にもそれなりに応えられそうに思える。
また、このクラスのプレミアムブランドのセダンとして見ても、新型ESのようなキャラクターのクルマというのは世界的にもあまりなく、その意味では存在意義は大きい。
新たな一歩を踏み出したレクサスの意欲作は、なかなか興味深い1台であった。
[筆者:岡本 幸一郎 撮影:LEXUS・茂呂 幸正]