金属行人(11月20日付)

 日本の古都と言えば京都だが、欧州の古都とされるのがオーストリアのウィーンだ。石畳の道に沿って独特の建物が並び、教会の鐘が時を告げる。歴史が刻まれたその町並みは、世界遺産にも指定されている▼オーストリアは、かつて欧州で一大勢力を築いたハプスブルク帝国の本拠地だった。第一次世界大戦ではオーストリアの皇太子夫妻暗殺が引き金となり、ちょうど100年前の終戦とともに帝国は解体。現在のオーストリアの国土は北海道と同じ広さで、人口は1千万人に満たない▼しかし帝国時代に育まれた優雅な芸術や文化、そして教育水準の高い真面目な国民性は今も息づいている。オーストリア経済公社(ABA)によると、経済規模はEU域内で4位を誇り、うち観光が占める割合は15%。観光以上に貢献しているのが3割近くを占める製造業だ。金属業界ではフェスト・アルピーネやAMAGがそうであるように、技術力が高い産業立国としても大国の面影が覗える▼「我々は小さな国なので」。先週、訪れたオーストリアでは現地の人々がこんな「枕詞」をしばしば口にした。しかし小さくとも光るものを持っている、そんな意欲と誇りの裏返しにも聞こえる。小さな島国に住む我々にも何か親近感を感じる生き方かもしれない。

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