【津川哲夫の私的F1メカ】2019年の焦点になる革新的ホイール戦争。メルセデスのタイヤ温度管理法を解説

 ここ最近、F1のメカニカル関連でもっとも話題に挙がっているのがメルセデスのホイールだ。今季のメルセデスはリヤタイヤのマネジメントに苦しんできた。特に温度管理に神経質な柔らかいコンパウンドで、メルセデスは悩んできたのだ。とは言え、そもそもタイヤの温度管理&制御はとてつもなく高い次元での話で、並のチームではそのレベルにまでとても辿りついていないのが現状なのだが……。

 タイヤの温度管理はもちろん、サスペンションでのメカニカルグリップの制御やダウンフォースの変化や大きさ、そしてエンジン出力とトルクの後輪への伝え方など、タイヤマメジメントにはさまざまな要素が絡んでいる。そのなかでも、ここではブレーキとホイールを使っての温度管理にフォーカスしてみたい。

 まずは、大まかな流れから。タイヤの表面温度がもっとも上がるタイミングは、ご存知のようにブレーキング時で、当然、ブレーキディスクも高温になる。ブレーキディスクとパッドの摩擦で発生する熱は、減速エナジーに変換され、この熱はブレーキ・クーリングダクトを使って冷却排熱され、ホイール外側へと排出される。

 そして現在ではこの排熱された空気をホイールへあてて、ホイールの温度、タイヤ内空気の温度、そしてタイヤそのモノの温度を内側から調整する役割を担うようになっている。当然、ブレーキがオーバーヒート気味になれば、この一連のルートはみなオーバーヒートすることになる。

 今シーズンのメルセデスはたびたび、このブレーキのオーバーヒートに見舞われてきた。前出の論理でもわかるように、ブレーキのオーバーヒートによって、タイヤの温度管理も難しくなってしまったのだ。

 この循環に陥ってしまうと、ブレーキの冷却を最優先とせざるを得ず、ホイールの温度コントロールは後手に回り、タイヤの温度管理は難しくなる。そのため、メルセデスだけではなくて多くのチームがホイールの表面にさまざまな工夫を凝らし、全体の表面積を上げることで冷却を促進してブレーキ冷却とのバランスをとっている。

 メルセデスはホイール内周面にバルジを配置して面積を稼ぎ、このバルジ部の増加分、タイヤの空気容積を増した。また、スポークも中空にして同じく内部空間容積を増量。さらにここ数戦、ホイールマウント面にスペーサーを使い、本来密着されている部分に複数の空間を造り、冷却空気流路として追加している。

 これらのトライは2019年シーズンへの布石と考えて良さそうだ。さらに過熱しそうなF1でのホイール戦争。来シーズンの戦いはもうとっくに始まっている。

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