がん治療、横浜市内で年間5万2千人 横浜市と市大が調査

 神奈川県横浜市と同市立大学は20日、市内医療機関で行われたがん治療の実態調査の結果を発表した。治療を受けた患者数は年間約5万2千人で、70%近くが薬物療法を受けていた。仕事と治療の両立が課題となる中、通院治療による患者の負担も明らかになった。市は結果を踏まえ、患者の就労支援など医療政策の立案に反映させる方針。代表的な医療ビッグデータであるナショナルデータベース(NDB)を特別抽出した分析で、基礎自治体では初の試み。

 調査対象は2014年4月から16年3月までの間、市内医療機関(134病院、2993診療所)で薬物、手術、放射線のいずれかの療法でがん治療を受けた患者。

 性別でみると、働く世代は女性1万1041人、男性5287人と、女性が2倍多かったのに対し、65歳以上の高齢者は一転して男性が女性の1・5倍。男性は高齢者を中心に前立腺がんが、女性は働く世代に多く見られる乳がんが最も多く、「男女の年齢構成比が大きく異なることの要因になっている」と分析した。

 治療法については、70%近くの患者が薬物療法を受けており、他の療法と比較してがん治療に関し役割が大きいことが分かった。外来化学療法を受けた患者の治療期間は平均4・5カ月間で、投与頻度は85%の患者が月2回以下だった。

 近年、働きながら通院するがん患者が増えているが、外来化学療法を受けている働く世代の患者の通院実態も明らかになった。年間平均13・8回の通院を要し、年間10回以上通院していた患者は74%、20回以上の通院は18%だった。

 同市医療局の担当者は課題として▽緩和ケアについて一般病棟や在宅の患者に関連するデータが含まれておらず実態の把握には至らなかった▽がんの進行度や患者の状態、提供された医療の質などの情報は含まれず分析に限界があった-といった点を指摘。

 その上で、薬物療法の副作用による脱毛など外見の変化にする医療用ウイッグ(かつら)購入支援などを引き続き推進するとともに、調査結果を企業に発信し、仕事と治療の両立支援といった医療政策に反映させていくとしている。

 分析に当たっては、横浜市大の医師、研究者の視点と共に、ビッグデータを分析し社会に役立てるデータサイエンスの手法を反映させた。確認された患者数や治療の方法・期間について、同市医療局の担当者は「がん治療を受けた患者に焦点を絞り網羅的に分析する新しい切り口によって、医師の肌感覚としてあったものが具体的な数字として捉えられた」と説明した。

◆NDB(レセプト情報・特定健診等情報データベース)

 医療レセプト(診療報酬明細書)や特定健診のデータを国が一元的に管理、集計したデータベース。医療サービスの向上を目的に自治体や大学などが利用できる。

横浜市役所

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