台風21号、停電数最悪「阪神」より復旧日数 関電、災害関連特損128億円計上

台風21号により倒れた電柱(9月5日午後3時ごろ京都市内で撮影、提供:関西電力)

延べ220万軒の停電

台風21号が直撃した関西地方。この一帯で電力を供給する関西電力(以下、関電)は、2019年3月期第2四半期決算において約128億円の災害関連の特別損失を計上した。21号では約220万軒のワースト2の停電軒数を記録し、完全復旧は停電発生から16日後。未曽有の被害を経験した同社を取材した。

関電には防災業務計画があり、組織上は送配電カンパニーとそれを除いた組織である発販部門等に分類されているが、大型台風など最悪の被害が見込まれ両部門が連携して対応する場合はバックヤードも含め300人規模の非常災害対策総本部が大阪市の本店に置かれる。災害被害が見込まれるが、非常災害対策総本部を置くまででもないと判断した場合は、非常災害対策本部もしくは警戒本部がそれぞれの部門に置かれる。また、台風に関連し水害・風害・塩害・高潮への対策を平時から実施。設備のかさ上げなどを行っている。

台風21号の際は9月3日の午後2時30分に警戒本部の会議を行ったが、その日のうちに非常災害対策総本部に格上げ。翌4日の関西最接近に備えていた。ところが4日の午後1時30分ごろに、停電情報システムの更新が止まる。停電軒数が多く、システムの処理能力を超えてダウンしてしまったためだった。手作業での集計で、同日の午後9時には瞬間的に約168万軒が停電していたことが後に判明。停電の延べ軒数は約220万軒で、これは1995年の阪神・淡路大震災の約260万軒に次ぐ軒数という。被害のあった関電の電柱は約1400本。台風での停電は2004年の台風16号の約50万軒がこれまでの最高で、大幅に更新した。

非常災害対策総本部が置かれる本店のある大阪市の関電ビルディング

自力復旧困難な山間部

4日には復旧活動にとりかかり、10日の午前0時段階で99%の復旧が終わった。街中に関しては1カ所の修理で多くの場所に電気が通るケースが多い。ところが「残り1%については山間部が中心。土砂崩れや倒木があり、障害物の除去活動で地方自治体などの協力をえなければならない箇所が多かった」と振り返るのは総務室防災グループマネジャーの坪田範久氏。全ての停電を解消したのは被害発生から17日目となる20日の午後5時51分。翌21日の午後5時にようやく非常災害対策総本部を閉鎖することができた。

阪神・淡路大震災では発災からほぼ1週間の153時間で全て復旧している。「震災の停電エリアは主に大都市部で、『点』の対応で復旧した。今回の台風21号は『面』の被害。山間部まで広がった台風による停電の復旧は大変時間がかかった」と停電軒数がより多かった阪神・淡路より復旧に時間がかかった理由を坪田氏は分析した。非常災害対策総本部では復旧にあたって被害が少なかった京都府北部や兵庫県北部から人員を被災エリアに送り、食事や宿泊の手配といった後方支援を行った。

復旧以外に問題となったのは停電情報の発信。停電情報システムの停止でホームページからの情報発信ができなくなったことで、顧客からコールセンターへ問い合わせの電話が殺到しパンク状態となった。関電に電話つながらなくなり、自治体にまで問い合わせが増え、さらに自治体が情報を求めて関電に問い合わせる悪循環に陥ったという。関電の非常災害対策総本部ではコールセンターの数百単位の回線と人員を増強。SNSによる情報発信も行った。自治体にはリエゾンを派遣し、報告をした。

検証委員会を設置し改善へ

9月30日に関西地方に最接近した台風24号では、関電は28日の午前9時に非常災害対策総本部を設置。延べ約12万軒の停電があり、完全復旧は10月2日の午後5時30分。21号の反省から、停電情報システムのサーバーやコールセンターを増強、自治体へのリエゾンも増やして対処した。

台風21号を受けて関電では検証委員会を立ち上げて、検証を続けている。特に発災から16日後となった復旧についてはもっと早くできなかったかという視点から、作業の短縮化やより災害に強くなるよう設備の改善も検討している。無電柱化も含め、費用や防災面から見て適切な方法で進めていく方針。またコールセンターのパンクがあったことから、復旧状況や見通しといった情報発信など顧客対応や自治体との連携の改善も進めていく。

関電では技能訓練のほか、自衛隊とも協力した人員や物資の輸送訓練も実施。ホバークラフトで電源供給車も運べ、その電源供給車を動かすための仮設のガソリンスタンドも設置できる。北海道胆振東部地震で起こったブラックアウトについては発電所ごとの発電量のバランスに配慮しているほか、営業エリアが本州にあり他地域の電力会社との融通も比較的容易なことから、可能性は低いという。「相次ぐ台風のほか南海トラフ地震も想定されており、停電ゼロは難しいが、当社の使命は安定的に電気を届けること。過去の教訓をふまえ、設備を強化して停電を減らし、停電時には1分1秒も早い復旧を目指す」と坪田氏。今後も災害対策を進めていく。

(了)

リスク対策.com:斯波 祐介

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