離陸中の航空機と衝突、死亡 強制送還の男性に何が起きたか

By 太田清

ロシア捜査委員会交通事故担当部局のツイッターから

 モスクワのシェレメチェボ空港で20日夜、痛ましい事故が起きた。アテネ行きのボーイング737機の乗員が管制官に「滑走路で動物にぶつかったようだ」と連絡、航空機に損傷はなく同機はそのまま飛行を続けたが、空港の保安担当者が現場に赴いたところ、見つけたのは動物ではなく人間の遺体だった。ロシアのNTVテレビなどが伝えた。 

 離陸に向け高速で滑走路を走行していた飛行機にぶつかったため、体の一部が切断されるなど遺体の損傷は激しく、すぐに身元は分からなかったが、その後、25歳のアルメニア人男性だったことが判明。ロシアの捜査委員会はツイッターで現場の様子を撮影したビデオを公開した。男性はスペインのマドリードから母国の首都エレバンに送還される途中で、経由地のモスクワに到着したところだった。 

 警察当局が事故原因を調べているが、インタファクス通信によると、男性はマドリードからの航空機内で暴れだし、航空会社側が警備員を呼ぶ騒ぎに。シェレメチェボ空港到着後は行方が分からなくなっていた。 

 送還を拒否し逃走したところを誤って滑走路に入り込んでしまった可能性もある。アルメニアは旧ソ連の共和国だったが1991年に独立。人口290万人の小国で、1人あたりの国民所得は3857ドル(約44万円、2017年)と貧しく、失業率も約19%と高いことから多くの若者が海外への出稼ぎに行くことで知られる。 

 毎年2万人前後が移住するなど、歴史的関係が深く旧ソ連の公用語であるロシア語が通じるロシアへの出稼ぎが最も多いが、ドイツやスペインなど西欧諸国にも多くの人が出国。出稼ぎは「アルメニアの主要産業の一つ」とも呼ばれている。 (共同通信=太田清)

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