【カリスマ失墜】(中)失われた要 不安、懸念広がる波紋

 「豪腕」「カリスマ」「コストカッター」。数々の異名や枕詞(まくらことば)はしかし濃厚なキャラクターと相まってぴたりとはまっていた。

 日産自動車代表取締役会長のカルロス・ゴーン容疑者(64)は、2000年に最高経営責任者(CEO)としてトップに立ち改革を断行した。

 国内の主力工場を相次ぎ閉鎖し、特定の部品メーカーからしか購入しない「系列」を撤廃。採算性のない取引先を切り捨て、2万人を超える従業員を削減した。

 猛烈な批判を受けながらも「ゴーンCEOの引き金で実際にチャレンジできた」(西川(さいかわ)広人(ひろと)社長)ことでいまの日産があるという面は無視し難い。

 合理化と拡大の両輪でついに16年には三菱自動車と資本提携し、3社の企業連合体制を築き、18年上期(1~6月)の世界販売台数は2年連続トップを維持した。

■波 及 

 「だからこそ、その影響は計り知れない」

 こう話すのは企業の信用調査を手掛ける帝国データバンクの内藤修・横浜支店情報部長。まず懸念されるのは販売面への影響だ。

 昨年9月に発覚した新車の無資格検査問題の影響がようやく落ち着いてきた直後の重大不正に「ブランドイメージが悪くなる可能性がある。マイナス面が広がり、長期化すれば、販売台数が減少し、ひいては部品を供給しているメーカーの経営に波及する可能性はある」とみる。

 県内には、主力の追浜工場(横須賀市)や横浜工場(横浜市神奈川区)に加え、厚木市内には先進技術開発センターや、デザイン開発、生産技術開発を手掛ける「テクニカルセンター」が立地している。

 帝国データバンクによると日産グループの国内主要企業と取引のある国内企業は全国に3658社ある。このうち東京都内が1264社、次いで多いのが県内で、722社が立地している。

 県内に本社を置く大手自動車部品メーカーの幹部は「どうなるかまったく分からない。風評のようなもので車が売れなくなるのは、ちょっとおかしいとも思う」と不安を口にした。

 ゴーン容疑者が断行したサプライチェーン(部品の調達・供給網)の大改革だけに、要を失った後の動向を懸念する声もある。

■統 治 

 まったく別の影響を示唆するのは東京商工リサーチ横浜支店の担当者だ。

 「今回の一件は、中小企業の経営にとってもインパクトがある」とみる。

 経営者個人と企業とが混然とし放漫経営が常態化した中小企業の場合、会社の資金と個人資産との区別が曖昧で不正が隠れているケースもある。

 「ゴーン容疑者逮捕の端緒となった内部通報が『企業の不正がただされる一つの手法』として認知されれば周知効果は大きい。中小企業の健全経営につながるきっかけになる可能性がある」と指摘する。

 「コミットメント」(必達目標)、「コンプライアンス」(法令遵守)、「ガバナンス」(企業統治)といった経営用語を先んじて日本に持ち込んだともいえる日産。試されているのは、そうした横文字に込められた魂の実践だ。

 日産・ルノー・三菱自連合の巨艦を率いた豪腕を失ったいまだからこそ、西川社長が会見で繰り返した「企業統治」の真価が問われている。

インタビューで電気自動車の普及策などについて熱弁を振るうカルロス・ゴーン容疑者=2010年5月、横浜市西区

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