「サッカーコラム」これが求めていた「ジャパン・スタイル」 前線4人が見せる連係は世界でも通用

日本―キルギス 後半、ゴールを決め南野(右)と喜ぶ中島=豊田スタジアム

 ベネズエラ、そしてキルギスと対戦した日本代表の11月シリーズが終わった。区切りとなるワールドカップ(W杯)ロシア大会後に、森保一監督の下で立ち上がった新生・日本代表。来年1月、2大会ぶりの優勝を目指すアラブ首長国連邦(UAE)でのアジア・カップを前に今年は計5試合をこなしたことになる。取材していて感じたことは「思いのほか早くチームの形が見えたな」ということだった。

 「新しいチーム」を編成するといっても、ゼロから作ることはまれだ。通常はそれまで築き上げられてきた「ベース」とでも言うべきものに肉付けがなされていく。過去10年余りの日本代表を振り返ると、この「ベース」となっていたのは岡田武史監督が率いたチームだった。2010年のW杯南アフリカ大会でベスト16に進出したチームは、ザッケローニ監督によってほぼ同じ形で14年ブラジル大会へ受け継がれた。この「南アフリカ仕様」のチームはその後も驚くべき耐久性を見せる。アギーレ、ハリルホジッチ、西野朗という3人の監督によってマイナーチェンジを加えられ、最終的にロシア大会ではほとんどの日本国民が予想もしなかった高パフォーマンスを発揮した。

 伸びしろが期待できるチームが手元にあるなら、“劣化した”部品を替えていけばいい。しかし、長谷部誠や本田圭佑という主力を取り外された状況でチームを作るのは、そう簡単ではない。森保ジャパンについても同様だ。当初はそう考えていた。しかし、5試合を終えた時点で、いや3試合目のウルグアイ戦を終えた時点で、誰もが新しい日本代表のスタイルを思い描けるようになったのではないだろうか。

 森保ジャパンの初戦として北海道で行われるはずだったチリ戦が9月6日に発生した北海道胆振東部地震の影響で中止。11月20日に実施された大分でのキルギス戦では交通渋滞の影響で試合前にやるピッチでのウオーミングアップさえできなかった。アクシデントが度重なっていることについて、口の悪い知人は「トラブルジャパン」と冗談めかして言っていたが、それでもこのチームに失望を覚えることはほとんどない。立ち上げから日がたたないので、本来ならチームの連係を高める時間が必要なはずだ。ところが、このチームにはチグハグさがあまり目立たない。

 守備は約束事で守る。だから、ある程度計算して組織をつくることが可能だ。しかも、そこには吉田麻也、酒井宏樹、そして11月シリーズは手術明けのために招集されなかったが長友佑都と、いずれもW杯を経験しているベテランが並ぶので安心感もある。その一方、形が見えるまでに時間がかかるだろうと思われていたのが、攻撃だ。しかし、その心配は杞憂(きゆう)だった。1トップと2列目に並んだ3人の選手が、これまでの日本のサッカーにはない、テクニカルで魅力的な攻撃を奏でているのだ。

 アジアでも屈指のポストプレーのうまさを誇る1トップ・大迫勇也が見せる対人の強さとボール収まりの良さ。それを最大限に生かすことのできる3人の若き才能が後方にそろっている。左から中島翔哉、南野拓実、堂安律と並ぶ2列目だ。Jリーグで見る機会が限られていたこともあるが、彼らがこれほど素晴らしい選手だとは正直思っていなかった。ボール扱いが巧みなだけでなく、自ら突破できて、人も使える。しかも、シュートに対する意識が高い。

 16年のリオデジャネイロ五輪を戦った代表チームで一緒だった中島と南野に、大迫、堂安を加えた4人によるコンビネーションが高い次元で展開されていく。「高いレベルの選手は短時間でコンビを合わせられる」とされるが、この4人はまさにそれ。お互いの波長が合っているから、ゲーム展開について「同じ絵」を描けるのだろう。

 現在の日本代表が披露する攻撃は、世界中を見渡してもかなり特異なものだ。「選手間の距離を近づけてコンパクトに」というのは、守備においては常識となっているが、攻撃でここまで密集地帯を突いていくチームはほとんどいない。攻撃的なチームの代表格であるバルセロナ(スペイン)でもゴール前では、もう少しスペースを使う。そんな森保ジャパンは間違いなく世界で通用する。

 日本サッカーが長らく求めていた「日本独自のスタイル」を作り上げるスタートになるのかもしれない―。このチームはそんな期待を持たせてくれる。狭いスペースをワンタッチやフリック、ヒールでつながれれば、どんなDFもついていくのは困難だ。キルギス戦で挙げた後半28分の4点目。南野からのボールを堂安がダイレクトでDFの間を通し、中島がダイレクトで決めた美しいゴールはまさにそれ。流れるようなあの瞬間の攻撃を、止められる守備網は世界を見渡してもそうはいないだろう。

 森保監督指揮の下、思いの外早く見つかった攻撃の「ジャパン・スタイル」。そのめどが立ったからこそ、キルギス戦ではベネズエラ戦のスタメン全員を入れ替えることができたのだろう。前線で確固たる評価を得た4人を中心とした現在の攻撃陣以外に目を付けている選手がいるか問われた森保監督は「『まだまだいる』というふうに思う。それは国内だけでなく、海外でプレーしている力のある選手もいる」と答えた。

 しかし、その基準はあくまでもベネズエラ戦で先発した4人のレベルに設定されているはずだ。それを思うと、アジア・カップでは攻撃にもどかしさを感じることはないだろう。新しい年に大いに期待が持てる。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はロシア大会で7大会目。

© 一般社団法人共同通信社