新報国製鉄、〝ゼロ膨張インバー合金〟で宇宙関連の開発支える 経年寸法変化もほぼゼロ

 新報国製鉄(社長・成瀬正氏)は、熱膨張・ヤング率・低温安定性・耐食性・経年変化の全てで世界最高水準を備えた〝究極のゼロインバー〟といえる超高剛性インバー合金「IC―DX」で、ハワイに超大型地上光学赤外線望遠鏡を建設するTMT計画における採用を目指している。今夏に公的機関で行った実験で、絶対零度に近い摂氏マイナス269度でもマルテンサイト変態が起きないことを確認しており、極低温域における熱膨張の極小化や高剛性が求められる過酷な使用条件に合致する材料として、技術論文発表を含む採用活動を進める。

 同社は最近3、4年間で相次ぎ世界最高水準の低熱膨張合金を開発している。このうち耐極寒インバー合金「IC―LTX」は、国立天文台などが進める赤外線位置天文観測衛星「JASMINE」計画の初号機である超小型「Nano―JASMIN」の実験機に採用されている。

 ここ3、4年で開発したのは高剛性「IC―EX1」、高剛性ゼロ膨張「IC―ZX」と「LTX」「DX」の4鋼種。「LTX」「DX」は「10年がかりで市場における本格採用を目指す」(成瀬社長)方針だが、「EX1」と「ZX」は半導体製造装置、精密測定機器、レーザー装置関連部品などに採用されており、新鋼種の売上高は全社の1割弱まで伸びている。

 同社のインバー合金の主用途は半導体製造装置、液晶・有機EL製造装置、各種ウエハ用精密研磨定盤などで、インバー合金の売上高は全社の7~8割を占める。きめ細かい熱膨張係数の調整など顧客の求める特性に合わせた材料を開発できるのも強みだ。

 産業技術総合研究所との共同研究により、インバー合金の経年変化(寸法変化)に関する研究も進んでいる。すでに1100日間を超える実験の結果、高剛性ゼロ膨張「IC―ZX」の経年変化量は年0・06ppm(ppmは100万分の1)と1千万分の1より小さいことを確認した。従来から低炭素インバー合金は経年変化しにくいと指摘されていたが経年変化量について年0・1ppm以下の極微小化が確認されたのは初めてのことだ。

 インバー合金は低熱膨張ニーズに有効な金属材料だが、経年変化に伴う寸法変化は十分解明されていなかった。産総研とは、炭素量による経年変化の再現性試験や経年変化の少ないインバー材の開発を目的に共同研究を開始した。光波干渉計を使用したブロックゲージの寸法測定法により経年変化を測定している。

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