性同一性障害 長崎県内の今 結婚誓い 共に性変更へ

 性同一性障害特例法が制定されて15年。性的少数者(LGBT)に関する報道や話題が増え、性の多様性について社会的な認識は高まったかのように見える。この15年で、当事者にとって生きやすい社会へと変わったのか。県内の性同一性障害(GID)のカップルに取材し、当事者の「現在地」を探った。

ともに性同一性障害を抱えながら生きてきたカップルが胸中を語った

■ 困難を抱え
 今月中旬のある日。長崎市浜町の待ち合わせ場所に2人が現れた。県内在住のアキラ=30代=とケイコ=20代=。一見、仲むつまじい普通の男女のカップルに見える。
 あごひげをたくわえたアキラはかつて、体の性別は女性だった。数年前、性別適合手術を受け、戸籍上の性別も変更。「男性」になった。ケイコは化粧をしてハイヒールを履いているが、体の性別は男性。手術をして、本来の「女性」の体を取り戻す予定だ。
 2人とも体と心の性が一致しないGIDの当事者。それぞれ、困難を抱えて生きてきた。
 アキラは幼少期、男の子と一緒に木登りをして遊ぶのが好きな子どもだった。セーラー服を着るのが嫌で中学校は私服で通った。高校卒業後、アパレル、調理師など職を転々とした。今は農業の仕事をしている。
 ケイコは小学校時代、自分の性に違和感を覚えた。小学6年の時、男子に初恋をした。中学は不登校になり、高校は通信制に通った。2年時の担任教諭からGIDの団体を紹介され、女性の体になるためのホルモン治療を開始。現在、アルバイトをして適合手術費用をためる生活を送っている。

■ 200万円以上
 5年前、当事者同士の交流会で知り合い、交際を開始。結婚を誓い合うようになった。お互いの両親も「2人がいいのなら」と賛同してくれている。だが、日本では同性間の婚姻は認められていない。アキラは既に肉体的にも戸籍上も男性だが、ケイコが手術を受け戸籍も女性に変更する必要がある。
 障壁になるのが多額の費用だ。アキラはタイで手術を受け、200万円以上かかった。日本国内では手術できる医療機関が限られる上、費用はさらに高い。今年4月、手術に公的医療保険が適用されるようになったが、ケイコは対象外。ホルモン製剤投与を受けていると、手術が混合診療とみなされ保険対象外となる。
 多くの当事者は、ホルモン投与を受けながら手術を待っている。アキラとケイコは「性別を変える上で、当然と思える行為がなぜ保険適用外になるのか。矛盾だらけ。一体、誰のための保険制度なのか。国は当事者を助けようとしてくれていない」と憤る。

■ 支え合って
 悩んだ末、2人が出した結論は海外での手術だった。目標の貯金額は200万円。それは2人が普通のカップルとして出発点に立つための費用。これから先、偏見も、職業上の差別もあるかもしれない。違う性だったことを周囲に知られることにもおびえている。子どもを持てない寂しさは常に心の隅にある。
 特例法制定から15年。法律や制度が少しずつ整ってきても、当事者たちの思いや苦しみをまだまだすくいきれていない現実がある。「これからも大変だろうけど、2人で支え合って生きていきたい。もしかしたら。僕らの結婚で勇気をもらう人もいるかもしれないですしね」。アキラはそう言って、ケイコの手を強く握り締めた。(文中仮名)


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