県境に風力発電 反対の声 住民「動植物、景観に影響」 佐世保隣接 伊万里の尾根 10基計画

 佐世保市世知原町と佐賀県伊万里市の県境付近の尾根で、風力発電の建設計画が持ち上がっている。佐世保市側は県立自然公園内で建設が難しいため予定地は全て伊万里市内。しかし機材の搬入ルートには佐世保市も含まれ、道路の拡幅工事で樹木が伐採される可能性も。近隣住民や市民団体からは「佐世保市の動植物や景観に与える影響は大きい」として、白紙化を求める声が上がっている。

 計画しているのは全国23の自治体で風力発電を展開する「エコ・パワー」(東京都)。計画によると、伊万里市内に高さ118メートル~148メートルの風力発電を10基程度設置する。昨年1月には県境付近に風況観測塔を設置。年間平均風速は好風を示す7メートルを観測した。
 予定地は、北松県立公園の主要展望地となる国見山の山頂から半径4キロ圏内に含まれる。本県は「県立自然公園内における風力発電施設の取り扱い基準」で、主要展望地から半径4キロ圏内に高さ30メートル以上の風力発電の建設を認めていない。
 しかし建設予定地は県外のため、適用されない。県自然環境課は「仮に県内で建設されるとしても、基準に法的拘束力はないので『県として認めていない』と主張はできるが、中止させられない。県外であればなおさらだ」と話す。
 佐世保市の「ふるさと自然の会」の川内野善治会長(71)は「基準の適用外だからといって、4キロ圏内に建設するのはおかしい。伊万里に建てても佐世保からの景観は大きく変わる。世知原の人にとって国見山はシンボル。反対する住民は多い」と憤る。
 予定地はハチクマやアカハラダカなど渡り鳥のルートになっており、バードストライクの危険が高まると指摘。搬入するための道路の拡幅で樹木が伐採されると、林の中が乾燥し、動植物に悪影響を与える可能性もあるという。川内野会長は「環境への影響を回避、低減できるとは思えない」と話す。

 伊万里市は2月、地元で再生可能エネルギーを普及、啓発していくことなどを目的としたビジョンを策定。この中で、国見山付近での風力発電の建設を掲げている。日本自然保護協会自然観察指導員で佐賀県連絡会の緒方昭浩さん(64)は「今のままでは問題点が多すぎる。ビジョンを再検討してほしい」と求める。
 伊万里市は「ビジョンは可能性を示しただけで、事業を推進する意味はない」と説明。「『国見山付近』という表現の修正は前向きに検討したい」としている。エコ・パワーの担当者は「佐世保市を通らない搬入ルートを模索している。地元住民の理解を得られるよう、計画の見直しも含め検討を進める」としている。

風力発電の建設が計画されている佐世保市世知原町と伊万里市の県境付近の尾根。エコ・パワーが設置した風況観測塔が見える=佐世保市世知原町
風力発電の建設想定区域

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