連勝連敗重ねるも打線が効果的に機能…データで今季を振り返る【ヤクルト編】

ヤクルトの得点と失点の移動平均グラフ

序盤の絶不調から交流戦で投手陣が覚醒

 前年借金51から今季貯金9へ大躍進を遂げたヤクルトスワローズ。優勝した広島には大きく水をあけられてしまいましたが、混沌のセ・リーグ2位争いを制し、3年ぶりのクライマックスシリーズ進出を決めました。

 そんなスワローズのペナントレースにおける得点と失点の移動平均を使って、チームがどの時期にどのような波に乗れたかを検証してみます。移動平均とは大きく変動する時系列データの大まかな傾向を読み取るための統計指標です。

 グラフでは9試合ごとの得点と失点の移動平均の推移を折れ線で示し、

得点>失点の期間はレッドゾーン、
失点>得点の期間はブルーゾーン

 として表しています。

 昨年45勝96敗、51の負け越しで屈辱の最下位に終わったスワローズは、今季75勝66敗と9つの勝ち越しに成功。いわゆる「貯金」の増加は前年比+60で、これは1976年の巨人と並ぶ大躍進記録です。

巨人 1975年47勝76敗7分(最下位)→1976年76勝45敗9分(優勝)
ヤクルト 2017年45勝96敗2分(最下位)→2018年75勝66敗2分(2位)

 そんなヤクルトの戦いぶりを振り返ると、交流戦前までは防御率4.54、援護率4.16からも伺えるように、ほとんどブルーゾーンと絶不調ぶりが顕著で、6連敗2回、5連敗1回と、前年に引き続き、他の5チームと引き離され大きく沈むかに思えました。しかし、交流戦に入り、まず投手陣が防御率3.38、先発投手が6イニング以上を投げ、3自責点以内に抑えるクォリティスタート率(QS率)55.6%と覚醒します。序盤で7連勝すると、セ・リーグではひとり気を吐き、パ・リーグ相手に12勝6敗、交流戦勝率1位を獲得しました。

打線の再構築で得点能力が向上、CS進出を果たす

 交流戦後は、打線を再構築し

1番 西浦直亨
2番 青木宣親
3番 山田哲人
4番 バレンティン

 と上位打線を組みかえます。これによって得点力の増強に成功します。特に西浦は1番打者として打率.295、出塁率.328、OPS.787と、青木、山田、バレンティンへのお膳立てをするだけでなく、得点圏打率.400、1試合平均0.8打点と下位打線で作ったチャンスを得点にするバッティングで貢献しました。

 オールスター戦以降は1番に坂口智隆が入り、打率.312、出塁率.386、OPS.755と機能。さらに

5番 雄平
6番 川端慎吾
7番 西浦直亨

 まで固定されたオーダーでより強固な得点力を得ることになります。上位打線が機能することによって、初回の得点確率が36.8%とリーグ1位の先制力となってゲームを優位に進めることができる形を作ります。さらには、9回の得点確率が34.9%とダントツに高い数値。9回ビハインドから11度も逆転劇を演じています。

 交流戦終了後は、大きな連勝連敗を繰り返し、まさに大波を引き起こす戦いぶりでしたが、8月に入ると防御率4.56ながらも援護率5.86という打線の援護で効果的に星を重ね、ついには8月29日、待望の貯金を「1」とします。9月以降は防御率0.43の原樹理、防御率1.06、10セーブの石山泰稚と、先発、救援の柱を中心に投手陣が奮起、チーム防御率3.33とラストスパートに貢献し、2位でペナントレースを終えることができたのです。

 本拠地神宮開催となったクライマックスシリーズには、2番打者としてチームに大きく貢献するもシーズン終盤で左太もも裏のけがで戦線離脱した青木宣親が出場できず、菅野智之にノーヒットノーランを喫してしまうなど打線が沈黙。3年ぶりのファイナル進出は果たせませんでした。

ヤクルトの各ポジションごとの得点力グラフ

守備での貢献度も高いトリプルスリーの山田

 次に、ヤクルトスワローズの各ポジションの得点力が両リーグ平均に比べてどれだけ優れているか(もしくは劣っているか)をグラフで示してみました。そして、その弱点をドラフトでどのように補って見たのかを検証してみます。

 グラフは、野手はポジションごとのwRAA(平均的な打者が同じ打席数立った場合に比べて増やした得点を示す指標)、投手はRSAA(特定の投手が登板時に平均的な投手に比べてどの程度失点を防いでいるかを示す指標)を表しており、赤ならプラスで平均より高く、青ならマイナスで平均より低いことになります。

 坂口、青木、山田、バレンティンの上位打線がすべてプラスの貢献を示しており、効果的に得点を重ねていった様子が伺えます。特に二塁手・山田哲人の貢献ぶりが大きく目立ちます。打率 .315、本塁打34、盗塁33(成功率89.2%)とNPBでは史上初3度目のトリプルスリーを達成しました。OPSも1.014と1を超えています。

 トリプルスリーも3度目となると、1度目、2度目よりも報道の扱いが小さいように感じますが、それはかの落合博満が3度目の3冠王を獲得した時の雰囲気に似ています。もちろん、記録の価値は何度とっても色褪せることはありませんが、かくなる上は、流石にトリプルフォーはハードル高いでしょうが、40-40(40本塁打40盗塁)はぜひ狙ってほしいものです。

 なお、山田哲人は打撃だけでなく守備での貢献も光りました。ゴールデングラブ賞セ・リーグ二塁手部門は広島・菊池涼介が受賞しましたが、アウトにどれだけ寄与したかを示すレンジファクターでは、並み居る二塁手の中で最も高い数値となりました。

山田哲人 5.77
中村奨吾 5.75
菊池涼介 5.32
浅村栄斗 5.19

投手陣に依然残る課題、ドラ1清水に原、星に次ぐ活躍を期待

 投手陣は先発、救援ともにマイナス評価です。この窮状を補強すべく、ドラフトでは5人の投手を指名しました。大阪桐蔭の根尾昂、東洋大の上茶谷大河はくじで外してしまいますが、1位に東都大学リーグ・国学院大学の投手、清水昇を指名しました。4年生時、春のリーグで防御率1位を獲得するなど安定感に定評のある投手で、背番号は松岡弘、川崎憲次郎といった歴代のエースがつけていた「17」に決定するなどスワローズから即戦力右腕としての期待をかけられています。2015年1位の原樹理(東洋大)、2016年2位の星知弥(明治大)と、近年のドラフト上位の大学卒投手が名を連ねるスワローズの先発ローテーションの一角を担える逸材でしょう。

 2位指名は法政大学の中山翔太。履正社高校出身ですから山田哲人の後輩にあたるのですが、スワローズは2016年1位の寺島成輝、2017年6位の宮本丈に次いで3年連続で履正社高校出身者を指名しています。東京六大学リーグ通算11本塁打の強打が持ち味で、外野手指名ですが大学では一塁手としてベストナインに選出されています。

 移籍による補強は目立ちませんが、23歳の奥村展征や宮本丈といったプロスペクトの成長によって、下位打線側のコントラストが薄くなればより大きな得点力が得られることでしょう。(鳥越規央 / Norio Torigoe)

鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、統計学をベースに、テレビ番組の監修や、「AKB48選抜じゃんけん大会」の組み合わせ(2012年、2013年)などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。
文化放送「ライオンズナイター(Lプロ)」出演
千葉ロッテマリーンズ「データで楽しむ野球観戦」イベント開催中

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