「プログラムは楽しいもの」ということを伝えたい:U-22 プログラミング・コンテストの楽しみ方【実行委員長サイボウズ青野社長インタビュー】

22歳以下であれば誰でも応募できるU-22 プログラミング・コンテスト。その実行委員長でもあるサイボウズ代表取締役社長の青野慶久さんに、このプログラミングコンテストの意義について聞いてみました。

年々応募が増える「U-22 プログラミング・コンテスト」

「IT」「プログラミング」ーーこういった言葉が現在ほど注目を浴びていなかった1980年代から開催(当時は経済産業省が主催)されている、「U-22 プログラミング・コンテスト」。人材の発掘・育成が目的の作品提出型コンテストです。

応募資格は22歳以下。ゲームやアプリ、Webサービスなど提出する作品の形は問わず、毎年多くの若者が腕試しに応募しています。応募者数は年々増加し、先日開催された2018年の回では460もの応募がありました。

そんなプログラミングコンテストの実行委員長を務めるのは、グループウェアやkintoneといったクラウドサービスでも有名なサイボウズの代表取締役社長・青野慶久さん。中学時代にプログラミングをはじめ、その後ソフトウェアで起業した経験をもつ青野さんに、コンテストの実行委員長就任の理由や、これまで印象に残っている応募作、若者たちにどんな期待をしているかについて、語ってもらいました。

プログラミングを楽しめるものにしたい。「U-22 プログラミング・コンテスト」の“仕掛け”

——企業運営だけでなくさまざまな情報発信をされるなど、忙しいなかでコンテストの実行委員長に就任した理由を教えてください。

青野 2014年の段階だと、まだプログラミングの重要性や「プログラミング教育」という言葉も、あまり認知度が高まっていませんでした。むしろ「プログラミングするのオタクっぽい」みたいな見られ方だったんですね。

日本では、プログラマーは「仕事がきつい」「帰れない」「給料が安い」の3Kにいろいろ加えて、7Kなんて言われていました。そういう風潮をひっくり返したかったというのが、大きな理由です。これからはプログラマーこそが世の中を変えていく人たちなんだっていうことを訴えたかった。そんなときに、ちょうど経済産業省から話があったので、ご一緒することになりました。

——この4年間で、世間でのプログラミングに対する注目度は変わったと思いますか?

青野 大きく変わりましたね。このコンテスト自体も、スポンサー企業を増やすなど、ブランディングをしながら知名度を上げてきました。世間でも、プログラマーの待遇はかなり上がったと思います。むしろ、今は高騰気味と言えるかもしれません。

いろいろな大企業が、高い給料でプログラマーを引き抜きにかかっている。この風潮に満足している一方で、この流れが加速すると、プログラミング教育の目標がビジネスだけになってしまったり、お受験的な子どもが楽しめないものになってしまう可能性があると思っているんです。

——そうならないための仕掛けとして、「U-22 プログラミング・コンテスト」を機能させたいと。

青野 はい。プログラミング教育を、知識を詰め込む押しつけ型の教育にしてしまうと、どんどんイヤになる。とりあえず「マラソンをやれ!」って押しつけると、どんどん運動嫌いになってしまう、みたいな。

そうではなくて、プログラミングでなにかつくることを楽しんでほしいわけです。このコンテストに応募するために、なにかつくってみようかと興味をもつきっかけになったらいいなと思っています。

もうひとつ、このコンテストを通して成長するだでなく、次のステップへ行くチャンスを掴んでほしい。優秀者を「未踏IT人材発掘・育成事業」※という、よいアイデアや技術には投資家からの出資もあるコンテストへの推薦枠もあるので、ここで賞をもらったら次はそういったところへチャレンジするのもいいと思います。

※独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が主催する、ITクリエイターの育成・発掘事業。メディアアーティストの落合陽一などを輩出。

買ってきたソフトを挿して遊ぶだけじゃつまらない。自分でゲームをつくってみたきっかけ

——青野さん自身は、中学生のときにプログラミングを学んで、それが大きな転機なったとか。このコンテストも、応募者にとっての転機になればいいと考えているのでしょうか?

青野 そうですね。こういった場で「受賞」という結果を出すことで、周りから認められることもある。そうやって、自分の得意分野を見つける下支えになったらいいな、と。

プログラミングがわからない親御さんたちも、省庁の後援があって有名企業の賞もあるコンテストということで、子どもに協力しやすい部分もあると思います。今回からは、最終選考の一つ前まで残った人にもその証明として、上位に残ったという証書を贈ることになりました。学校や家庭では、「なにをやってるかよくわからない」と思われている子どももいると思いますが、賞状や証書をもらうことで、彼らのすごさが周りに理解されるといいな、と願っています。

賞金や、副賞もけっこう豪華なので、「ゲーム開発のために、賞品のiMacがほしい」という理由で応募していただくのも、大歓迎です。

——ちなみに、青野さんがプログラミングに興味をもったきっかけはなんですか?

青野 小学校6年生のときに、ファミリーコンピュータが発売されたんですけど……。買ってきたソフトを挿して遊ぶだけっていうのが、手のひらの上で転がされている感じがして、遊ぶのに少し抵抗があったんです(笑)。

遊ぶだけじゃなくて、なにかをつくってみたい。そう思っていたときに、パソコンというものに出会って、中学2年のときにお年玉で「MSX」という当時の安いパソコンを買いました。

ファミコンのソフトは当時ひとつ買うだけでも5000円以上するけど、1冊500円の雑誌に載っているコードを打ち込むと、ゲームが手に入るわけです。これはお得だし、自分が手で入力したものが動くということ自体「すげえ!楽しい!」と思って。改造ができるのも、子ども心がくすぐられたんでしょうね。

小・中学生からあふれ出る異常なエネルギー。大人もメチャクチャ刺激を受ける

——これまで審査をしたなかで、印象に残っていることありますか?

青野 毎回驚くのは、(高校生以上よりも)小・中学生の応募に光るものが多いことですね。若い子たちは、実際に実装するために必要なことをすっ飛ばして、おもしろいかどうかしか考えない。彼らの、あふれ出る異常なエネルギーみたいなものに触れると、私も刺激を受けます。やっぱりなにかをつくるのって楽しいんですよ。今でもプログラマーとして仕事をしたいという気持ちはあるんですが、なかなか声がかかりません(笑)。

このコンテストには「プロダクト」「テクノロジー」「アイデア」の3部門があって、たとえば技術的にはイマイチで荒削りでも、光るアイデアが受賞することもあります。技術に自信がなくても、どんどん応募してほしいですね。

ーーとくに優れていたアイデアとして記憶に残っているものはありますか?

青野 2017年に総合で経済産業大臣賞を受賞した高校生2人が作ったゲーム「Draw Near」はすごかったですね。宇宙空間でサバイバルするシミュレーション・アクションゲームなんですが、つくることに没頭したんだろうということがヒシヒシと伝わってくる。グラフィックなどなにもかも、作り込みが異常で、生活のほとんどをゲームづくりに費やしただろうという感じでした。

プロダクトページ

https://www.youtube.com/watch?v=ATU-1ZM27po&

他にも、カラオケボックスの壁面にプロジェクションマッピングをするシステムもおもしろかったですね。歌詞や利用者の動きに合わせた演出が出てきて、ライブのような雰囲気を味わえるシステムで、“1人EXILE”ができる、みたいな。アイデアだけでなく実装まで、大したものだと思うレベルでした。

受賞情報

大学に行くのももったいない。起業するならここが近道

——もし、ご自身が中学生だった時代にこのコンテストがあったら、応募していましたか?

青野 応募したでしょうね。もう一度人生がやり直せるなら、大学も行かないです。やりたいことがある人にとっては、大人ともつながることのできるこういった機会を活かして、起業したほうが近道ですよね。

——サイボウズを創業した際、4ヶ月で黒字化したという伝説があります。こういったコンテストの受賞者たちが、起業してすぐ成功する可能性もあるのでしょうか?

青野 あり得ると思います。ソフトウェアの商売でおもしろいのは、プログラミングができる人なら、パソコンさえあれば、ある意味原価ゼロで開発ができるところです。うまく当たったときはすぐに黒字にできるし、内容によってはグローバルな展開もできる。そういう例をたくさん見てきましたし、ぜひそういった可能性を感じてほしいと思います。

——商業的な成功も十分可能だと。

青野 サイボウズも、起業して3年で上場ですからね。起業してすぐのうまくいかないころは給料ゼロで、役所に行って「すみません、年金の支払い、ちょっとまってもらえますか……」なんてやってましたけど(笑)。

そこから3年後には一生遊べるお金が手に入りましたから、起業のスピード感はおもしろいですよね。ただ、起業のいいところは、お金だけじゃなく、社会を変えるやりがいもあるというところだと思うんです。

——社会を変えるやりがい、ですか。

青野 2017年のコンテスト受賞者のなかに、「お手軽点字リーダー」という、点字の画像を読み込んで文字を表示するアプリで応募した人がいました。この発想はなかった、と審査員みんなでうなりましたね。スマホでピッとやるだけで、誰でも点字が読める。障害者との敷居を無くす取り組みで、これは素晴らしい。

アプリページ

プログラミングで起業してお金を稼ぐのもいいんですけど、社会をより良くしたいという動機で応募する方もいるので、そういった人がどんどん増えるようなきっかけを作りたいです。

こういった社会起業的な分野では、これまでいろいろなNPOやNGOが頑張ってきたわけですが、資金不足もあってテクノロジー化が遅れている部分もあると思っていて。そういった部分を、若い人のワンアイデアとプログラミングで、ガラッと変えられることもあると思うんです。

最近の若い人たちは、お金よりも社会を変えるといったやりがいを求めていることが多い気がします。そういった人たちが目指す場所のひとつとして、このプログラミングコンテストをブランディングしていきたいですね。

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22歳以下であれば、誰でも応募することができる「U-22 プログラミング・コンテスト」。賞金や豪華副賞を手にするだけでなく、サイボウズ、さくらインターネット、Cygamesといった、さまざまな企業の目に留まったり、また同年代のプログラマーたちと出会うこともでき、新たなチャンスが広がる可能性もあります。少しでも興味がある方は、ぜひチャレンジしてみるとよいのではないでしょうか。

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