【アメリカ中間選挙】下院で民主党が躍進。今後トランプ大統領は民主党と妥協するのか、それとも…?

11月6日に行われたアメリカ中間選挙では、上院では共和党が過半数を獲得し、下院では民主党が過半数を獲得しました。上院と下院で過半数が異なるのは、上院では今回選挙の対象とならない議員の多くが共和党議員で、選挙が行われる前から共和党が有利だったことの結果です。そのため、今回の選挙は実質的に民主党が勝利したといえます。
今回、下院で民主党が過半数を獲得したことは大きな意味を持ちます。法案は上院、下院の双方で通過しないと成立しないからです。そのため、法案の成立には民主党の支持が不可欠になります。トランプ政権からすれば民主党との妥協が求められるわけです。
この記事では、下院において民主党が躍進したこととその後への影響について解説したいと思います。

民主党の中でも左派が台頭

今回の民主党の躍進のうち注目すべきは、特に左派が議席を伸ばしたことです。民主党左派とは、皆保険の実現や最低賃金の上昇といった論争的な争点を、民主党主流派以上に強く訴えるグループです。2016年の民主党大統領予備選挙に出馬して話題になったバーニー・サンダース氏もこのグループでした。今回の選挙では29歳の史上最年少で下院議員に当選したアレクサンドリア・オカシオコルテス氏をはじめ、多くの左派議員が誕生しました。その結果、「進歩派議員団」という民主党左派が属する議員グループは、現在の78人から100人以上になる見込みだと伝えられています。これは、上院と下院とをあわせた連邦議員の総数535のうち、5分の1にものぼり、無視できない勢力になることを意味します。

2020年大統領選候補の若手スター候補は苦戦を強いられる

今回はもう一つの特徴として、民主党の地盤の選挙区のみならず、接戦選挙区やむしろ共和党が地盤とする選挙区において、よりリベラルな民主党候補が善戦したことが挙げられます。今回当選した多くの民主党左派議員は、民主党が地盤とする選挙区の出身です。しかし、フロリダ州知事選に出馬したギラム氏や、ジョージア州知事選に出馬したステイシー・エイブラムス氏、テキサス州上院選に出馬したベト・オローク氏は、いずれも接戦選挙区や共和党が地盤とする選挙区において善戦して注目を集めましたが、共和党候補に敗れました。
しかし、総額約80億円にものぼる政治資金を集め、共和党の地盤であるテキサス州で2016年大統領選に出馬したテッド・クルーズ氏に対して善戦したオローク氏が株を上げたのは明らかでしょう。大統領選では全国規模の知名度や接戦選挙区における集票力が求められます。そのため、早くも、彼の大統領選出馬を求める声が広がっています。

民主党が過半数を占めた下院はトランプ大統領にどう立ち向かうか

共和党のトランプ化については別の記事でも触れましたが、民主党も左派の台頭によって変容しつつあるといえるでしょう。その大きなテーマが、国民皆保険の実現と最低賃金の上昇です。元々これらは左派的な政策テーマで、民主党でもかつては現実的ではないと一蹴されていました。しかし、今回、こうした左派的な政策テーマに反発を示す共和党が地盤とする州でも、こうした政策が一部実現しつつあります。
一方で、連邦レベルでこうした政策を実現するには大きな障害があります。上院過半数、大統領はいずれも共和党であるということです。下院トップである議長には、2003年以降下院民主党トップに君臨するナンシー・ペロシ氏が就任することが見込まれています。しかし、今回彼女は下院議長に就任するにあたって左派にポストを配慮することが指摘されています。そうなれば下院においてそうした左派的な主張が強くなることは十分あり得るでしょう。
その時にカギとなるのはトランプ大統領です。トランプ大統領は、左派のリーダー的存在であるサンダース議員といくつかの点において政策を共有しています。その代表的な論点が、保護貿易、賃金上昇、薬価引き下げです。また、今回共和党ではトランプ大統領を支持する共和党議員が誕生しています。女性や人種といった論点について共和党と民主党との対立が先鋭化しているために両者の妥協は難しくなっていますが、論点だけ見れば左派的な主張のいくつかは実現する可能性はあります。新しい下院議長のもとでこうした政策を実現できるか、仮にできなくても国民に向けてその重要性を訴えられるかが、2020年大統領選に向けた大事なステップになるといえるでしょう。

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