江夏豊、佐々木主浩、山田久志…名球会投手に聞く「打者・大谷どう攻める?」

エンゼルス・大谷翔平【写真:Getty Images】

「素晴らしい打者なのであえて厳しい球を投げる」(江夏豊氏)

 日本球界のレジェンドが一同に集まった、名球会ベースボールフェスティバル2018。新旧の名選手たちが集った場所で、夢のある質問を投げかけてみた。その2回目は『打者・大谷翔平と対戦したらどう攻めるか?』

 2018年のMLBはレッドソックスの世界一で幕を閉じた。海の向こうでは、今年も数多くの名シーンが生まれた。その中でも鮮烈であったのは「二刀流」大谷翔平の存在。投手としては右肘故障の影響もあり10試合の登板に終わったが、打者としてはほぼフルシーズンの活躍。114試合出場、22本塁打、61打点、打率.285の成績でア・リーグ新人王にも選出された。
 
「もともと投手としてアメリカからは声がかかったわけだから、その中で打者としてあれだけでの成績を収めるのがすごいことだよね」

 大谷の活躍を心から祝福しているようだったのは、南海、阪神、広島、日本ハム、西武で大活躍したサウスポー江夏豊氏。自らもメジャー挑戦経験があるため、大谷の実力を高く評価している。(1985年にブルワーズ挑戦)

「今も昔も変わらないのは、やはりパワーやスイングスピードは凄い。いくら大谷君の身体が日本人離れしているとしても、相当の準備をしていたことがわかる。まったく負けていないからね。そういう意味でも日本人野手がメジャーで結果を出すのは大変なこと。イチローは彼独特のプレースタイルだから、比較できない」

 打者・大谷を高く評価した江夏氏だが、対峙したらどのように勝負をするのだろうか。

「簡単に勝負して打ち取れるほど甘い打者ではない。どうしても厳しいコース、言葉は悪いけどぶつけることも覚悟で、内側を攻めることになる。内側を意識させないと、外側の緩い球も長いリーチで拾われてしまう。カウントの早い段階から厳しい勝負をどんどんすることになるだろうね。状況によっては胸元の危ない球も必要になるねえ」

「伝家の宝刀フォークボールを活かすためにも内角を厳しく突く」(佐々木主浩氏)

 次に語ってくれたのは、大魔神こと佐々木主浩氏。大洋、横浜、マリナーズで活躍したストッパー。MLBで通算129セーブ、NPBで歴代3位となる通算252セーブを挙げた。

「最終的には、やはりフォークで勝負したい。だけどそれだけでは絶対に振ってくれないと思う。フォークはやはりボールゾーンで勝負する球。大谷君は選球眼も良い。ボールのフォークは見逃されてしまうと思う。またストライクゾーンのフォークをチェンジアップ的に使うこともあるけど、そういう球は簡単に拾われてしまうのではないか。だから早い段階で内側を攻めざるをえない。厳しく内側を攻めることで腰も引けてくれる。そうすればフォークボールもより活きてくるし、勝算も出てくると思う。うまくいけば空振りもね」

 佐々木氏が投げるフォークは、ほとんどの打者が打てないイメージが強い。本人もそう思っているに違いない。しかし佐々木氏にそこまで考えさせるほど、大谷の打力は優れている。

「シンカーではなく浮き上がる真っ直ぐで空振りを取りたい」(山田久志氏)

「インコース高め、少しでも間違ったコースに行ったら長打を打たれてしまうところへ、全力の真っ直ぐを投げ込んでみたい」

 あくまでストレート勝負にこだわりたいと語ってくれたのは、阪急一筋のサブマリン投手、山田久志氏。通算284勝、2058奪三振、MVP3回、最優秀防御率2回、最高勝率4回という、まさに大投手である。山田氏といえば、ストレートよりも切れ味鋭いシンカーのイメージが強い。

「シンカーはもちろん僕の武器。でも一番、自信を持っていたのは下手から投げて、浮き上がる軌道で空振りを取る真っ直ぐ。シンカーが活きたのも真っ直ぐがあったから。現役時代も良い打者になればなるほど、真っ直ぐでの勝負が好きだった。だから大谷君には真っ直ぐで勝負してみたい」

「全盛期の一番力がある時の真っ直ぐを投げてみたかった。それにアメリカでは下手投げはあまりいないから、普段から練習していないはず。それならば空振りが取れたんじゃないかな……。やっぱり打たれたのかな……」

 かつて並み居るパ・リーグの強打者たちを打ち取ってきた渾身の真っ直ぐ。大谷にも投げ込んでみたい、という純粋な思いを語ってくれた。

 各球団に若手の強力なスラッガーがどんどん現れている。先の日米野球でもそれらを証明するかのような、規格外れの天井直撃弾も見られた。そんなMLBの中でも決して引けを取らない強打者、大谷翔平。この男との対戦については、日本を代表する投手たちも、真剣に考えてしまうものなのだ。(山岡則夫 / Norio Yamaoka)

山岡則夫 プロフィール
 1972年島根県出身。千葉大学卒業後、アパレル会社勤務などを経て01年にInnings,Co.を設立、雑誌Ballpark Time!を発刊。現在はBallparkレーベルとして様々な書籍、雑誌を企画、製作するほか、多くの雑誌やホームページに寄稿している。最新刊は「岩隈久志のピッチングバイブル」、「躍進する広島カープを支える選手たち」(株式会社舵社)。Ballpark Time!オフィシャルページにて取材日記を定期的に更新中。

© 株式会社Creative2