ありがとうの会にぬくもり いろんな顔のさくらさん

さくらももこさんをしのぶ「ありがとうの会」で飾られたパネル=11月16日、東京都港区の青山葬儀所

 愉快なことが大好きだった彼女だから、お見送りも楽しく―。人気漫画「ちびまる子ちゃん」の作者で、8月に53歳で死去したさくらももこさんをしのび、11月16日に東京・青山葬儀所で開かれた「ありがとうの会」。さくらさんの人柄そのままに、人々のぬくもりを感じる集まりになった。

 ビートたけしさん、山本リンダさん、爆笑問題の太田光さん、女子サッカーの澤穂希さんら、各界から約千人が参列。祭壇には遺影でなく自画像が飾られ、漫画のキャラクターのイラスト、フィギュアが至る所で笑顔を振りまく。BGMはアニメソング。さくらさんの故郷の名産「静岡おでん」の屋台も登場、だしの甘い香りで縁日のような空間を演出していた。

 「きょうは拍手オーケーです!」。テレビでおなじみの笠井信輔アナウンサーが開式を告げると、アニメで「まる子」役を務める声優TARAKOさんが、街でさくらさんと見間違われ、タクシー運転手に歌手のイルカさんと間違われた逸話を披露。「誰がどれやら」。客席がどっと沸く。

 女優の賀来千香子さんは「おなかがよじれるほど笑わされた」27年の交流を振り返り、「さくらさんは、ちびまる子ちゃんそのものでした。もう一度笑い合いたかった」と声を震わせた。

 「まる子ちゃんそのもの」というのは、さくらさんの人物評の定番だ。人を笑わせるのが大好きで、ほのぼのとしていて、ちょっとシニカルで…。その点「飲み友達」だった和田アキ子さんの証言は興味深かった。「きょうは楽しい会だから話しちゃう」と口にしたのは、泣く子も黙る“芸能界のドン”をしのぐ酒豪ぶりだった。「一緒に飲むと、いつも私の方が『帰らせて』とお願いするほど。本当に強かった」。飲んだ後「また行きましょう」と誘う「ものすごいガラガラ声」が耳に残っているという。豪傑。そんな言葉が浮かぶ。

 一方「気が小さいのにどこまでもダイナミック」「ずるがしこいのに純粋な優しさがある」とスピーチで表現したのは、自他共に親友と認める作家の吉本ばななさん。年齢が近く同時期に人気が出た2人は、世間の目を避け某所のスーパー銭湯に避難し、全裸で密会を重ねたのだという。

 「ぐうたらでおしゃべり好きで、ゲラゲラ笑う子猿みたいな」さくらさんが、ペンを持った途端にすっと集中し「美しい大人の女性、絵の天才」に変身する瞬間をずっと見ていたかったと吉本さん。「どこまでもクールでシュールで乾いた本当の笑いをありがとう」と感謝をささげた。

 会ではその後、さくらさんが作詞したアニメのエンディングテーマ曲「100万年の幸せ!!」を、サザンオールスターズの桑田佳祐さんが歌い上げた。謙虚にして貫禄のパフォーマンス。少し湿っていた会場に、穏やかな笑顔が戻った。

 「絶対にまだその辺にいる」。TARAKOさんも和田さんも確信していた。優しくてシニカルで、気が小さくて豪快で…。いろんな顔のさくらさんを、みんながそれぞれに近しく感じている。「さよなら」ではなく「ありがとう」と呼び掛けている。素直にそう感じられる良い会だった。(山下憲一・共同通信文化部記者)

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